RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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「思い出した」
ルークがいつものように確かめるようにゆっくりと・・・だが唐突に言葉を発した。
ディオンはそんなルークに ちらりと視線を投げて先を促す。
「何を」
「忘れてたことを」
ガクリ、と頭が落ちて赤毛が揺れる。
「あんなぁ・・・だから何を忘れてたのかって聞いてんだよ」
形だけ怒っているような仕草をしながら、睨み上げるように青い瞳がルークに向けられる。
しかしルークはどこか遠くを見ているような表情で、顔をそむけたままポツリと呟いた。
「・・・ベリルは本当に・・・もう気にしていないのかな」
そう言ってから、ようやっと赤い瞳の視線が自分にむけられたが、ディオンは無言のまま 目線だけで先を促す。
ルークは少しだけ目を伏せて、言葉を選ぶ。
「えぇと・・・愛したことと、憎んだことと、新しいことと」
ルークは真剣に言っているのだが、ディオンはつまらない冗談を言われた時のような、酷く退屈そうな表情をした。 その対応に、思わずルークの方がきょとんとする。
「ルーク、お前、自分が愛されてるかどうかを疑ってんの?」
呆れたようにディオンが問うと、ルークは慌てたように首を振った。
「まさか」
そして自分の手のひらを見つめる。 ルークの手には手袋がはめられている。 彼の手にぴったりとフィットした、真っ白な手袋。
頭上に乗せられたトップハット以上に、その白い手袋が外される機会は少ない。
「それが本物だってことは、僕が一番良く知っているさ」
ぎゅっと、拳を握る。
そこにあるものを確かめるように。
「でも・・・本物だからこそ、辛いってこともあるだろう」
ディオンはいつものように茶化すような合いの手を入れることなく、じっとルークを見つめた。ルークは言葉を続ける。
「今は僕はちゃんと僕だけど。僕であるせいで僕ではない誰かと同じになってしまうのかも知れないから。
僕は誰かにならないように・・・僕でないものであるようにした方がいいのかな」
今度はフリではなく 心底呆れた表情で、ディオンはルークの言葉を一蹴した。
「は、わっけわかんねぇっての!」
「・・・そうだよね」
諦めたように溜息をつくルークの背を、ばしっとディオンの手のひらが叩く。勢いで トップハットをずり落としながら、ルークは驚いた顔をディオンにむけた。
「ばぁーか!お前ってほんっとバカ」
呆然と口を開いたルークに言葉を発する暇を与えず、ディオンがもう一度言う。
「バカ。くだらないことばっか考えて時間潰すなよ、勿体ねーし」
形の良い、金色の眉が顰められる。
「くだらない?」
「くだらない」
間髪居れずに繰り返して、ディオンはびしりと ルークの鼻先に指をつきつけた。
「ルークはルーク。それ以上も以下も、変わりようがないだろっての」
視点を鼻先の指にあわせながら、赤い瞳が困惑に揺れる。
「成長しないってことでは ないかんな。お前は成長するが、その結果も過程においても、お前がルークでないものになることはないってハナシ」
指先をずらして、顰められたままの眉根を突く。いたっ、と小さくルークが言葉を漏らした。
「言ったろ。 お前が いくら成長したところで、お前がオレたちの弟だってのも変わらない」
「それ・・・似たようなことを ベリルにも言われた」
ディオンに指を突き刺された部分を手のひらでさすりながら、ルークが思い出したように呟くのを聞きながら、ディオンは っだー、と叫んで頭を抱える。
「ディオン?」
「あぁぁったくもう! ホンッとお前ら お互いのことしか考えてねーのな。 いちいちオレに言うなよ。 聞いてるこっちが疲れるぜ。ばからし」
「え」
もうメンドくさい!と言いながらディオンが背を向けてしまったので、ルークは何といって良いかわからずに沈黙する。
暫く、どちらも黙ったままだった。
やがて、ディオンが真っ赤な赤毛をルークに向けたまま、確かめるように言った。
「お前さ、ベリルに愛されてるって、わかってるって、さっき自分で言ったろ」
「・・・・・・うん」
「愛されてんのは今のお前だろ。だから いーんだって」
「・・・・・・」
「そのままでいーんだよ」
ルークが そのまま、と小さく繰り返す。
「同じことがあったとしてもお前はお前で、誰かは誰かで。それだけで意味が違うだろ」
そういって、ディオンはくるっとルークの方に向き直る。 そして片手でぱっと彼のトップハットを奪うと、もう片方の手でぐりぐりと乱暴に頭を撫でた。ルークは 呆然とされるがままになる。
そんなルークの頭を片手でしっかりと掴んだまま、ディオンは真正面からその瞳を覗き込んだ。
「不安になるのも分かるけどな、当たり前のこと言わすな。ってか本人に言えよ」
ルークが照れたように少し頬を赤くして、そして口を小さく尖らせる。
「・・・そんなの言えるわけないよ」
言葉を最後まで待たずに、ディオンはぱっとルークの頭を離した。
「そりゃ、怒られるに決まってるからな。ったく、それがわかってたクセに」
「・・・・・・ディオン、ごめん。有難う」
ルークが謝ると、別にいいさ。とディオンは片手をひらひら させて見せる。
「そのかわり、今度オレがお茶会の掃除当番になったときはお前に手伝わせるかんな」
「うん、いいよ」
微笑むルークの肩に腕を回しながら、ディオンは頼んだぜ、と笑った。
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ルークがいつものように確かめるようにゆっくりと・・・だが唐突に言葉を発した。
ディオンはそんなルークに ちらりと視線を投げて先を促す。
「何を」
「忘れてたことを」
ガクリ、と頭が落ちて赤毛が揺れる。
「あんなぁ・・・だから何を忘れてたのかって聞いてんだよ」
形だけ怒っているような仕草をしながら、睨み上げるように青い瞳がルークに向けられる。
しかしルークはどこか遠くを見ているような表情で、顔をそむけたままポツリと呟いた。
「・・・ベリルは本当に・・・もう気にしていないのかな」
そう言ってから、ようやっと赤い瞳の視線が自分にむけられたが、ディオンは無言のまま 目線だけで先を促す。
ルークは少しだけ目を伏せて、言葉を選ぶ。
「えぇと・・・愛したことと、憎んだことと、新しいことと」
ルークは真剣に言っているのだが、ディオンはつまらない冗談を言われた時のような、酷く退屈そうな表情をした。 その対応に、思わずルークの方がきょとんとする。
「ルーク、お前、自分が愛されてるかどうかを疑ってんの?」
呆れたようにディオンが問うと、ルークは慌てたように首を振った。
「まさか」
そして自分の手のひらを見つめる。 ルークの手には手袋がはめられている。 彼の手にぴったりとフィットした、真っ白な手袋。
頭上に乗せられたトップハット以上に、その白い手袋が外される機会は少ない。
「それが本物だってことは、僕が一番良く知っているさ」
ぎゅっと、拳を握る。
そこにあるものを確かめるように。
「でも・・・本物だからこそ、辛いってこともあるだろう」
ディオンはいつものように茶化すような合いの手を入れることなく、じっとルークを見つめた。ルークは言葉を続ける。
「今は僕はちゃんと僕だけど。僕であるせいで僕ではない誰かと同じになってしまうのかも知れないから。
僕は誰かにならないように・・・僕でないものであるようにした方がいいのかな」
今度はフリではなく 心底呆れた表情で、ディオンはルークの言葉を一蹴した。
「は、わっけわかんねぇっての!」
「・・・そうだよね」
諦めたように溜息をつくルークの背を、ばしっとディオンの手のひらが叩く。勢いで トップハットをずり落としながら、ルークは驚いた顔をディオンにむけた。
「ばぁーか!お前ってほんっとバカ」
呆然と口を開いたルークに言葉を発する暇を与えず、ディオンがもう一度言う。
「バカ。くだらないことばっか考えて時間潰すなよ、勿体ねーし」
形の良い、金色の眉が顰められる。
「くだらない?」
「くだらない」
間髪居れずに繰り返して、ディオンはびしりと ルークの鼻先に指をつきつけた。
「ルークはルーク。それ以上も以下も、変わりようがないだろっての」
視点を鼻先の指にあわせながら、赤い瞳が困惑に揺れる。
「成長しないってことでは ないかんな。お前は成長するが、その結果も過程においても、お前がルークでないものになることはないってハナシ」
指先をずらして、顰められたままの眉根を突く。いたっ、と小さくルークが言葉を漏らした。
「言ったろ。 お前が いくら成長したところで、お前がオレたちの弟だってのも変わらない」
「それ・・・似たようなことを ベリルにも言われた」
ディオンに指を突き刺された部分を手のひらでさすりながら、ルークが思い出したように呟くのを聞きながら、ディオンは っだー、と叫んで頭を抱える。
「ディオン?」
「あぁぁったくもう! ホンッとお前ら お互いのことしか考えてねーのな。 いちいちオレに言うなよ。 聞いてるこっちが疲れるぜ。ばからし」
「え」
もうメンドくさい!と言いながらディオンが背を向けてしまったので、ルークは何といって良いかわからずに沈黙する。
暫く、どちらも黙ったままだった。
やがて、ディオンが真っ赤な赤毛をルークに向けたまま、確かめるように言った。
「お前さ、ベリルに愛されてるって、わかってるって、さっき自分で言ったろ」
「・・・・・・うん」
「愛されてんのは今のお前だろ。だから いーんだって」
「・・・・・・」
「そのままでいーんだよ」
ルークが そのまま、と小さく繰り返す。
「同じことがあったとしてもお前はお前で、誰かは誰かで。それだけで意味が違うだろ」
そういって、ディオンはくるっとルークの方に向き直る。 そして片手でぱっと彼のトップハットを奪うと、もう片方の手でぐりぐりと乱暴に頭を撫でた。ルークは 呆然とされるがままになる。
そんなルークの頭を片手でしっかりと掴んだまま、ディオンは真正面からその瞳を覗き込んだ。
「不安になるのも分かるけどな、当たり前のこと言わすな。ってか本人に言えよ」
ルークが照れたように少し頬を赤くして、そして口を小さく尖らせる。
「・・・そんなの言えるわけないよ」
言葉を最後まで待たずに、ディオンはぱっとルークの頭を離した。
「そりゃ、怒られるに決まってるからな。ったく、それがわかってたクセに」
「・・・・・・ディオン、ごめん。有難う」
ルークが謝ると、別にいいさ。とディオンは片手をひらひら させて見せる。
「そのかわり、今度オレがお茶会の掃除当番になったときはお前に手伝わせるかんな」
「うん、いいよ」
微笑むルークの肩に腕を回しながら、ディオンは頼んだぜ、と笑った。
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