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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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「ひゃー、こっから見ると、やっぱ無駄にでっかいよなぁ」

 庭から屋敷を見上げながら、ディオンが感心しているとも呆れているともつかない感想を零した。
 ルークの選んだ白い薔薇の棘を一本一本丁寧に落としながら、シェルが答える。

「そうだよねぇ。ぼく、最初に見たとき驚いたよ。12人とはいえ、もう少し小さくても大丈夫なのにね」
「全くだよ。おかげで 掃除にいらん時間が かかってさー。 これからだって、使うなら手入れしなきゃだろ? まったく オッサンが見栄を張るからこっちが大変だっての」

 ディオンは大げさに首を竦めてみせながら首を振った。
 ちなみに、彼の言うオッサンとはベリルのことである。 世界広しと雖も、ベリルのことをオッサン呼ばわりするのはこのディオンぐらいのものである。

 シェルが白薔薇を掲げて、残った棘がないか確かめながら呟く。

「見栄とかそういう問題なのかなぁ・・・」
「そうに違いないって。どうせ この屋敷だって、ベリルと仲良ぉーーっく、してるご婦人方の紹介なんだろ」

 そこまで言って何かに気づいたのか、ははーん、と訳知り顔でディオンは口元を持ち上げる。

「もしかしたら丸々プレゼントして貰っちゃったのかも。 いつものお仕事の報酬で。 だったらオレら、兄弟でココに住んでいいものか考えもんだよな。 それが本当ならそのご婦人、ここでオッサンとより親密な関係になりたいって思ってるのかも知れないし」

 本人が居ないのをいいことに、次々と軽口を叩くディオンにシェルが苦笑する。 二人とも、傍できょとんとした顔をしているルークには気が付かない。

「そんなまさか。だって此処を買うのにオクトとか、ボレオとか・・・お金のことで相談されたみたいだよ」
「え、そうだったの!? なんで頼れるディオン君には全く相談が無いワケ?」
「・・・お金持ってるように見えないからじゃない?」
「そ、そりゃ・・・確かに定職はありませんけれども。 大変だって言うなら、新聞配達でも 何でもして稼いだってのに! 水臭いなぁ!」

 ディオンが地団駄を踏みながら拳を振り回す。 と、それまで黙ってじっと二人の会話を聞いていたルークが、ディオンの服の裾をくいくいと引っ張った。

「ねぇ、ディオン」
「うん?なんだルーク」

 振り返ったディオンに、ルークが首を傾げながら問う。

「あのね、小さくても大きくても、ものを買うのにはお金が必要なんだよね」
「まぁ、そうだな」
「それで、お金を貰うには、働かなくちゃいけないんでしょう?」
「大概はな」
「でも僕らのいつものお仕事だと、お金は貰えないんだよね」
「あー、夢の中だしなぁ」
「だったら・・・」

「だったら、ベリルは他に・・・何のお仕事をしてお金を貰ってるの?」

 ディオンとシェルの二人の動きが止まった。

「だってね、僕のこの服もベリルが買ってくれたんだよ」

 自分が着ている青いセーラー服を指しながら、ルークが言う。 子供服としては珍しくないデザインだが、良く見ると生地はそこそこ上等なものが使われているということが傍の二人にもわかった。 それほど安くはないだろう。
 回答に困って、ディオンの目が泳ぐ。 ルークは真剣な瞳を真っ直ぐ彼に向けて、回答を待っている。 なんと言ったものかと、ディオンはうーん、と低く唸った。

「オッサンはな・・・女性に愛を・・・じゃない、えーと・・・そう! 女性への奉仕活動をしている!」
「ほうしかつどー?」
「ちょ、ちょっとちょっとディオン・・・っ!」

 ルークはきょとんと繰り返し、シェルは驚いて持っていた白薔薇を振り上げてディオンを止めようとした。

 正直なところディオンもシェルも、ベリルがどうやって日々の生活費を稼いでいるかなど詳しく知りはしない・・・というよりは、想像の範囲のことならば、あまり詳しく聞きたくはないというのが本音だが。
 その、想像の範囲でのベリルの仕事をディオンは遠まわしに回答したつもりだった。 しかし、ルークには理解はできないだろうが、かなりストレートな表現である。 大人組がここに居たら、大層 眉を顰めたことだろう。 勿論、ベリル本人が聞いていたらそれどころではない。

「だ、だから、夫に先立たれたりして寂しい女性をな、慰めたり、励ましたり・・・」

 しどろもどろで当たり障りなく回答しようとするも、話せば話すほど墓穴を掘ってしまっているディオン。 シェルが白い目を向けながら、隣で溜息をついた。

「えぇっと、だから! 女性に優しい紳士的な仕事だよ!」

 ディオンはもう、どうにでもなれ、とでもいうように乱暴に言い切って終わる。

「ふーん、そうなんだ。ベリルは皆に優しいんだ・・・あは。やっぱりベリルは格好良いんだね!」

 ディオンの怪しい説明でもルークは何だか満足したらしい。 嬉しそうに にっこり笑ってそう言った。 それに返ってきたのは、そーだなー・・・、という力ない声だけだったが、特に気に留めはしなかった。
 シェルが棘を落とし終わった薔薇で口元を隠しながら、ひっそりとディオンに囁く。

「あーあ・・・また、そんなことルークに教えちゃって。ぼくは知らないからね」
「だ、だいじょーぶ、だいじょーぶ!だってホントのことだし。遅かれ早かれ気づくだろっ」

 ディオンは笑いながら、振り切るように明るく言ったが、内心 冷や汗まみれだった。
 ルークはシェルから薔薇の束を受け取って、飛び跳ねるような軽い足取りで庭園を見回り始めた。 背の高い薔薇の垣根に、ルークの姿が隠れては現れる。その様子を眺めていたシェルの顔が、少しばかり強張る。
 胸の奥が、きゅっと締め付けられるような気がした。

「なんだか・・・懐かしいような気がする」
「・・・だな」

 シェルの呟きに、ディオンが真面目な瞳で同意した。

「ディオンもそう思う?・・・僕さ、この屋敷を見たとき、ここに来たのが初めてじゃないような気がしたんだよね。この庭もそう・・・こうなる前の、良く手入れされていた頃の姿が、まるで見てきたみたいに思い浮かぶんだ。なんでだろう?」

 珍しく言葉の多いシェルに、つまらなさそうな表情でディオンは首を振った。

「さぁな。 でもそういうのって、同じじゃなくても少し似てたら感じたりするじゃん。 別に珍しい造りでもなし。長い人生、同じような屋敷や庭園を目にしたこともあるんじゃねぇの?」

 そういうことかな・・・とシェルは、少し落胆を見せる。

 実は、ディオンもシェルと同じようなことを感じてはいた。 それは愛しいような、だけど、苦しいような複雑な感情。 何故なのか確かめたいような気もしたが、彼にしては珍しく躊躇いの方が勝った。
 大切だから。もっと丁寧に扱わないといけない。

 そんなわけでつい、シェルに対してそっけない態度をとってしまった。
 しばし、気まずい沈黙があった。それを破ったのは、ルークが二人を呼ぶ声だった。

「ディオンー!シェルー!!」

 いつの間にそこまで行ったのか、ルークは庭園の端から二人に向かって笑顔で手を振っている。 翳りなど全く無い純粋なその笑顔。 胸に少しだけあった塊がするするとほぐれて、ディオンもシェルも自然と笑顔になった。
 ルークが手を振るたびに、金の髪が太陽の光を反射して鈍く輝く。 緑、赤、青、白・・・眩しいばかりの光の下、色は霞んで透き通り、遠ざかる。

 ただ一つ、その金色だけが鮮やかに瞼に焼きついた。

 あぁ、今度こそきっと。

 そう、誰かが小さく呟いた。


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