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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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深い深い森の奥で、私達は完全に迷子だった。
どこまで行っても人の居る気配なんかなくて、当然道もない。
延々と同じ木々が生い茂るばかりの森の中では、自分達がまっすぐ歩いているのかすら分からなくなりそうで。
私達の左手、鬱蒼と茂る葉の隙間からのぞくかすかな夕陽だけが、辛うじて方角を教えてくれていた。

時折耳に届く獣の遠吠えのような音に、草を踏み分ける足は自然と速まる。
それでなくとも、そろそろ寒さが厳しくなってくる時期だし。
とにかく、日が完全に沈む前に安全な場所を探さないと。

そう思ったとき、かすかに燈る明かりが視界に飛び込んできた。

「リース!リース見て!あそこにお城がある!」

私が後ろを向いて呼びかけると、リースは俯いていた顔を持ち上げた。
可哀想に。
こんなに歩いたのは初めてだろう彼女の、鮮やかだった金の髪はすっかりくすんでしまって汗で額に張り付いている。

「もう少しよ、リース。あのお城の人に頼めば、雨宿りぐらいさせてくれるかもしれない」

手をとって励ますと、彼女は気丈にも少し笑って頷いた。

目標ができると、なんとなく足が軽くなる気がする。
そうやって、私達はなんとかその古城の前に辿り着いた。

人里離れた森の奥に、これ見よがしに佇む優美な古城。
白い石が積み上げられて作られた城壁は、薄暗い闇のなかでも微かな光に輝くように、浮かび上がって見えた。
王侯貴族のそれのように華美な装飾はないけれど、ところどころに彫られたレリーフは、その城の主が決して身分の低い者ではないことを表している。
城の四方には、それぞれ城を支えるようにして大きな塔が立っていて、並ぶように鋭く細い塔が連なる様は洗練されていて美しい。

だけど、どうしてだろう。なんだか違和感を覚えるのは。
こんなに美しい城なのに、城塞のような硬いイメージも感じさせるのだ。

少し気味が悪いと感じているせいかもしれない。

だけど・・・そう、リースだけじゃなくて私も酷く疲れていたのだと思う。
それでなくても、ここのところ色々なことがありすぎて、考える気力もなくなっていたから。
だから突然現れた古城に大した警戒もせず、私達はすんなり足を踏み入れてしまったんだ。



+++++++++++++++++++



小さな窓から漏れてくる灯りの他には、城の周囲にも中にも人の気配が全く見られない。

私は薔薇のレリーフが施されたノッカーを叩いて呼びかけた。
重く堅牢な扉が音も無く内側へスッと開く。だけど、迎え入れてくれる人の姿はどこにも見えなくて、私とリースは思わず顔を見合わせた。

リースの片手は胸元に添えられて、服の下に彼女がいつもつけているクロスのペンダントを握っていた。不安なとき、リースはいつもそうしている。
私はリースの空いている方の手をしっかりと握りしめた。

扉は開かれたまま。
中を覗くと、仄かに灯りが燈った玄関ホールが見える。

灯りが燈っているってことは、誰かが居るのは確かだと思うのだけど。

いかにも、罠って感じじゃない。
さすがに、足は簡単には進まなかった。

まさか中に入った瞬間に二人とも食べられちゃうってことはないわよね。
そう思うと、床に敷かれた赤い絨毯が、何かの生き物の舌のようにも見えて背筋が震える。

だけど、こうして外に居たって危険なのにはかわりないんだ。
証拠に、さっきはずっと遠くに聞こえていた遠吠えが、随分と近くで聞こえている。
繋いだ手に少しだけ力をこめて、私達は恐る恐る中へと足を踏み入れた。

赤い絨毯はとてもふわふわとしていて、足音は簡単に吸い込まれてしまう。
おかげで、周囲はずっと静けさに包まれたまま。

「あの、すみません、どなたかいらっしゃいますか・・・?」

私の発した声は、少しだけ反響して消えた。
返事の声は聞こえない。

私達は、お互いに背を庇うようにしながらぐるりと周囲を見回した。

緩やかに円を描いて、大きく吹き抜けになった玄関ホール。
真正面に一つ大きな扉があるのが見えたが、こちらは硬く閉ざされているようだ。

左右には円筒の壁に沿うようにして階段が上へと続き、玄関の真正面で交わっている。
そこは、玄関ホールを見下ろすように大きく迫り出した踊り場になっていて、木の欄干は誰も触ったことが無いのかと疑うほどに念入りに磨かれていた。
欄干だけじゃない。
絨毯も、階段も、高い天井から吊るされた豪華なシャンデリアも、どこにもかしこも。蜘蛛の巣どころか塵一つ見当たらないほど綺麗に掃除されている。人が居ない城ならば、こんなに綺麗に掃除されていることはないだろう。

だけど、周囲に人影は全くない。
私達のほかに動くものは、シャンデリアに燈された火だけ。

「あのっ・・・!」

何だか嫌な感じがして、私はもう一度呼びかけようと口を開いた。

「へぇ?誰だろう、人がいるね」

突然、場違いに明るい声が響いて、私達は手を握ったまま飛び上がった。
声のしたほうを見上げると、いつ現れたのか踊り場に人影がある。

「君達誰?どこからきたの?」

欄干に肘をつくようにして、人懐っこく笑いながら話し掛けてきたのは、ひょろっと背の高い男の子だった。
年の頃は私達と同じか少し上ぐらい。
リースよりも日に焼けて赤くなった、少し癖のある金髪に大きな赤い瞳。
白地に半分が黒の水玉、半分が黒のストライプという変わったシャツを着ている。

とりあえず、出てきたのが人型をしていたことに、私は安堵の息を吐いた。

と、思った次の瞬間。

彼が欄干をひょいと乗り越えて、宙に身を躍らせたものだから。
私は吐いたばかりの息を再び飲み込む羽目になった。



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