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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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この大きなホールの踊り場は、私達が良く知る家の2階以上の高さがある。
そこから飛び降りて無事でいられるとは思えない。

じゃらじゃらと鎖が擦れる音。
そして何か硬いものがどすんと床に叩きつけられる音が低く響いた。

リースが小さく悲鳴をあげる。
私も悲鳴こそあげなかったものの、驚きで固まっていた。

だけど、痛そうな音がしたのに反して、彼の着地は軽やかだった。
長い足は柔軟に屈伸して衝撃を吸収し、何事もなかったかのように伸び上がる。

当の本人も、飄々とした態度で私達の前に立っていた。
そして驚いた顔を向けている私達に向かって、首を傾げてにっこりと微笑む。

彼が腕を腰に当てたとき、再びじゃらりと鎖の音がした。
先ほどの音の正体。
鎖のついた手錠が彼の右手首に嵌められていた。
鎖は彼が手を降ろした状態で、ぎりぎり床につかない程度の長さ。

床に叩きつけられたのはこの鎖の方だったんだろう。
だけどふわふわの絨毯でも吸収しきれないほどの衝撃だったんだ・・・それって相当重い鎖だってことなんじゃ・・・。

そう考えていた間に、彼は私達の近くまで歩み寄ってきていた。

近くで見ると、彼の顔を斜めによぎる大きな傷が目に付いてドキリとした。
まるで千切れた人形を子供が縫い合わせたみたいに、酷く縫い目の目立つ大きな傷。
襟が大きく開いていたので、胸元にも同じような傷があるのが見える。

背が高い彼は、私達の背の高さにあわせて屈みこむと、再び同じ質問を繰り返した。

「ねぇ、君達誰?」

「あ・・・」

少しばかり気圧されながら、私が口を開こうとしたところで、また別の声が階上から響いた。

「どうした、フェイズ?何かあったのか?」

フェイズと呼ばれた彼は、身体を起こして踊り場を見上げた。

「アレックス、人が来たよ。君の知り合い?」
「人?」

さらに踊り場から現れた男の人を見て、私は不覚にもドキッとしてしまった。
繋いだ手が震えたから、リースも同じだったんだろう。

そう、なんていうか・・・全体的に、すごく格好良い人、だったんだ。

年は多分20代後半か、30代前半ってところ。
漆黒の髪は丁寧に後ろに撫で付けられている。
切れ長の瞳は金色で、視線はこちらを向いていた。

「へぇ?俺の知り合いにはこんな可愛らしいお嬢さん方はいなかったはずだが?」

唇の端をそっと持ち上げて、彼は薄く笑った。
そんな一つ一つの動作がとても決まっている。
うぅ、こんな格好よい人、村じゃみたことない。

彼はゆっくりと身を翻すと、階段に足をかけた。

一段、一段と、階段を降りてくるその姿は見惚れてしまうほど優雅。

身体のラインにぴったりとあった、いかにも上等そうな黒のスーツを嫌味なく着こなして。
その上に羽織っている黒いマントは、彼が長い足を伸ばすたびに赤い裏地を覗かせる。

容姿も、物腰も。
このアレックスという人は、いかにも城の主に相応しいと思える人だった。

彼は私達の傍まで歩いてくると、フェイズと呼んだ男の子の隣に並んだ。
そして、改めて私達に視線を向ける。

私は唐突に自分の姿を思い出して、恥ずかしさで頬が熱くなった。
彼の格好に対して、今の私達は俯きたくなるほどみすぼらしい格好だ。

ただでさえ、何の飾り気も無い粗末な服。
それが、何日にもよる旅でさらに汚れて所々擦り切れている。

走って逃げ出したい気分。
ふと振り返ってみると、玄関扉はすでに閉ざされていた。

「珍しいこともあるもんだな。こんな辺鄙な城、男の旅人だって殆ど寄り付かないんだが」

彼がマントを肩越しに払いながら言った。
吐き出す言葉のトーンまで、彼のは甘くて上品だ。

リースが私の手をぎゅっと握る。反対の手は、未だクロスのペンダントに添えられたまま。そう、恥ずかしがってる場合じゃない。私はようやく、ここに来た目的を口にした。

「あの、ご迷惑になるってわかってるんです。だけど私達、道に迷ってしまって」

形の良い眉が、少しだけ持ち上がる。

「台所の床でも、納屋でもいいんです。泊めて、頂けませんか?お願いします!」
「お願いします」

二人で頭を下げる。
男の子の方は何を考えているのかわからない。ただ、面白そうにこちらを見つめている。
金の双眸が、もう一度。私達を順番に見つめた。

見定めるような鋭い瞳に、私達は思わず一歩後退さる。
白い手袋の嵌められた手が口許を抑えて、唇をすっとなぞった。

「まさか、こんな可愛らしいお嬢さん達に野宿しろなんて言える訳ないしな」

私とリースは顔を見合わせる。

「歓迎するよ。納屋なんて言わず、ちゃんと部屋を用意するからゆっくりするといい。何せいくらだって部屋は余ってるからな」
「あ、有難うございます!!」

深深と頭を下げてお礼を言った私達。
頭の後ろで、彼らがどんな表情をしていたかなんて知る由も無い。

「こいつと二人の味気ない食事にもウンザリしてたところなんだ。よかったら、晩餐も一緒して貰えると嬉しいんだが」

ほとんど着の身着のままで村を出てきたしている私達。
食事なんて、ほとんどまともにしていない。
だからそれは願ってもない申し出だ。断る理由はどこにも無かった。

そうして私は、今夜の宿が確保できたことですっかり気を緩めてしまって。
彼らが何者かなんてことにまでは、これっぽっちも考えが及ばなかった。



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