RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
私達が玄関から部屋まで来るときに通ってきた廊下は、イルカの石像のところで燭代の炎が消えていた。この次には梟の石像があったはずだが、先の廊下は真っ暗で全く見えない。
変わりに、私達の通ったことのない交差した廊下の方に灯りが燈っている。
フェイズが足をとめて、灯りの燈っているほうの廊下に顔を向けた。
つられてそちらを見ると、悠然と歩いてくるアレックスの姿が見えた。
黒のスーツに黒のマント。
彼の衣装は先ほどと変わりないようだ。
「準備はできたようだな」
彼は、私達の方を見て微笑んだ。
「おや、その服にしたんだな。もっと華やかな服もあったような気がしたが・・・。まぁ、可愛らしいお嬢さん達だから、それ以上飾る必要なんてないか。なんにせよ、サイズはぴったりだったようでよかった」
「そういえば、どうしてこの服・・・」
私が抱いていた疑問を口にしようとすると、アレックスはそれを片手で遮った。
「おっと、無粋な質問は後にしようか。まずは晩餐だからな」
軽くウィンクで返されて、何も言えなくなってしまう。
彼は傍らに立っていたフェイズの方を振り返った。
「さて、揃ったところで、行くとするか」
アレックスが言い終わるか言い終わらないかのうちに、突然、廊下の灯りが一斉に消えた。
そして今度は、私達の正面の廊下に灯りが一斉に燈る。遠くに、梟の石像が見えた。
「え・・・!?」
私の背筋に、ざわりと悪寒が走る。背後は真っ暗だ。
燈ったばかりの炎は、風もないのにゆらゆらと大きく揺れている。
なんだか、雰囲気がおかしい。
アレックスは特に驚いた様子もなく、私達を振り返って微笑みを浮かべた。
背後からの灯りのせいで、彫りの深い顔には濃い影ができている。
表情は先ほどまでと変わらないはずなのに。
纏っている空気がずっと冷たいように感じられる。
「さぁ、いこうか」
アレックスが微笑んだまま手を差し伸べてきて、私は思わず一歩さがった。
ちょっと!薄く開いた唇の隙間から覗く小さな白いもの・・・あれって牙じゃない・・・!?
私の背後で、リースが微かに身動ぎした。多分、胸元のクロスを握ったんだと思う。
「どうした?」
彼がこちらに足を一歩踏み出す。
その背後ではフェイズが石像に寄りかかって薄く微笑んでいる。
その微笑みも、どこか不敵で気味が悪い。
どうしよう。
出口に向かうには、彼ら二人の間をすり抜けていく必要がある。
私の額を一筋の汗がつたった。
だけど。
ふと見ると、目の前に差し出された手が微かに震えている。
見上げるとアレックスは顔を背けて、肩を震わせていた。
「え?」
事態の飲み込めていない私達を他所に、フェイズが呆れた声をあげる。
「あーあ。駄目じゃないかアレックス。最後まで役に徹してくれないと」
アレックスは肩を震わせながら、片手をひらひらと振った。
「いやいや、逐一反応が可愛らしいお嬢さん方だ。どうにもこうにも、これ以上怖がらせるのも忍びなくて」
彼の喉の奥からはくつくつ と笑い声が漏れている。
「なかなか真に迫ってたよね」
「まぁ、本物だしな」
フェイズが暢気に言えば、アレックスが声を震わせながら答える。
その様子をぽかんと見つめる私達に、フェイズが屈託のない笑顔を向けた。
「怖かった?」
何これ・・・
ここにきて、私もようやく理解した。
もしかしなくてもこの人達・・・私達をからかってたってこと!?
もう、かなり、趣味が悪い!
私が抗議の声を上げようとすると、二人が突然笑いをとめた。
先ほどとは違う、緊張した空気が二人の間に流れる。
「アレックス」
「あぁ」
アレックスは大きくため息をついた。
「まったく、あいつも毎晩毎晩懲りないな。こっちの都合も考えて欲しいもんだが」
毀れた前髪をかきあげながら、心底迷惑そうに呟く。
完全に話題が見えない。
私は、先ほど抗議するタイミングまで逃したせいで口を開きかけたまま止まっていたが、再び我に返ってアレックスに詰め寄った。
「ちょっと、一体何がどうなってるの!?どこまでが本気でどこまでが冗だ・・・」
私が言い終わらない内に、すぐ近くで獣の遠吠えが響いた。
背後の廊下の灯りが一斉に燈る。
驚いて振り返ると、同じように驚いた表情のリースの脇の窓に大きな影が映っているのが見えた。
ピシリと嫌な音をたてて窓に亀裂が入る。
私の横を何かがすっと通り抜けてリースに向かった。
私の身体は反対に、抱きかかえられて後ろに跳んだ。
その間の私の瞳が捉えていたのは、立ち竦むリースに容赦なく降り注ぐ、割れた窓の破片。
「リースっ!!」
他の音は一切聞こえなくなって、自分の悲鳴だけがやたらと頭に反響していた。
Back << Top >> Next
変わりに、私達の通ったことのない交差した廊下の方に灯りが燈っている。
フェイズが足をとめて、灯りの燈っているほうの廊下に顔を向けた。
つられてそちらを見ると、悠然と歩いてくるアレックスの姿が見えた。
黒のスーツに黒のマント。
彼の衣装は先ほどと変わりないようだ。
「準備はできたようだな」
彼は、私達の方を見て微笑んだ。
「おや、その服にしたんだな。もっと華やかな服もあったような気がしたが・・・。まぁ、可愛らしいお嬢さん達だから、それ以上飾る必要なんてないか。なんにせよ、サイズはぴったりだったようでよかった」
「そういえば、どうしてこの服・・・」
私が抱いていた疑問を口にしようとすると、アレックスはそれを片手で遮った。
「おっと、無粋な質問は後にしようか。まずは晩餐だからな」
軽くウィンクで返されて、何も言えなくなってしまう。
彼は傍らに立っていたフェイズの方を振り返った。
「さて、揃ったところで、行くとするか」
アレックスが言い終わるか言い終わらないかのうちに、突然、廊下の灯りが一斉に消えた。
そして今度は、私達の正面の廊下に灯りが一斉に燈る。遠くに、梟の石像が見えた。
「え・・・!?」
私の背筋に、ざわりと悪寒が走る。背後は真っ暗だ。
燈ったばかりの炎は、風もないのにゆらゆらと大きく揺れている。
なんだか、雰囲気がおかしい。
アレックスは特に驚いた様子もなく、私達を振り返って微笑みを浮かべた。
背後からの灯りのせいで、彫りの深い顔には濃い影ができている。
表情は先ほどまでと変わらないはずなのに。
纏っている空気がずっと冷たいように感じられる。
「さぁ、いこうか」
アレックスが微笑んだまま手を差し伸べてきて、私は思わず一歩さがった。
ちょっと!薄く開いた唇の隙間から覗く小さな白いもの・・・あれって牙じゃない・・・!?
私の背後で、リースが微かに身動ぎした。多分、胸元のクロスを握ったんだと思う。
「どうした?」
彼がこちらに足を一歩踏み出す。
その背後ではフェイズが石像に寄りかかって薄く微笑んでいる。
その微笑みも、どこか不敵で気味が悪い。
どうしよう。
出口に向かうには、彼ら二人の間をすり抜けていく必要がある。
私の額を一筋の汗がつたった。
だけど。
ふと見ると、目の前に差し出された手が微かに震えている。
見上げるとアレックスは顔を背けて、肩を震わせていた。
「え?」
事態の飲み込めていない私達を他所に、フェイズが呆れた声をあげる。
「あーあ。駄目じゃないかアレックス。最後まで役に徹してくれないと」
アレックスは肩を震わせながら、片手をひらひらと振った。
「いやいや、逐一反応が可愛らしいお嬢さん方だ。どうにもこうにも、これ以上怖がらせるのも忍びなくて」
彼の喉の奥からはくつくつ と笑い声が漏れている。
「なかなか真に迫ってたよね」
「まぁ、本物だしな」
フェイズが暢気に言えば、アレックスが声を震わせながら答える。
その様子をぽかんと見つめる私達に、フェイズが屈託のない笑顔を向けた。
「怖かった?」
何これ・・・
ここにきて、私もようやく理解した。
もしかしなくてもこの人達・・・私達をからかってたってこと!?
もう、かなり、趣味が悪い!
私が抗議の声を上げようとすると、二人が突然笑いをとめた。
先ほどとは違う、緊張した空気が二人の間に流れる。
「アレックス」
「あぁ」
アレックスは大きくため息をついた。
「まったく、あいつも毎晩毎晩懲りないな。こっちの都合も考えて欲しいもんだが」
毀れた前髪をかきあげながら、心底迷惑そうに呟く。
完全に話題が見えない。
私は、先ほど抗議するタイミングまで逃したせいで口を開きかけたまま止まっていたが、再び我に返ってアレックスに詰め寄った。
「ちょっと、一体何がどうなってるの!?どこまでが本気でどこまでが冗だ・・・」
私が言い終わらない内に、すぐ近くで獣の遠吠えが響いた。
背後の廊下の灯りが一斉に燈る。
驚いて振り返ると、同じように驚いた表情のリースの脇の窓に大きな影が映っているのが見えた。
ピシリと嫌な音をたてて窓に亀裂が入る。
私の横を何かがすっと通り抜けてリースに向かった。
私の身体は反対に、抱きかかえられて後ろに跳んだ。
その間の私の瞳が捉えていたのは、立ち竦むリースに容赦なく降り注ぐ、割れた窓の破片。
「リースっ!!」
他の音は一切聞こえなくなって、自分の悲鳴だけがやたらと頭に反響していた。
Back << Top >> Next
PR