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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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「今日は、楽しかった」

フェイズが俺の前を軽やかに歩きながら、話しかけてくる。

「まぁな」

俺は曖昧に返事を返す。

「明日が楽しみだろ?」

フェイズは、こんなところまで飛んできていたらしい石像の欠片を蹴り飛ばした。
欠片は、どこかの壁にあたって、乾いた音をたてる。

「さて、どうかな」

本音を言えば、複雑な気分だ。
その微妙な心理を汲み取ったのか、フェイズは振り返って訝しげな視線を投げてきた。
もっとも、フェイズの表情にはほとんど変化がなく、他人が見ればいつもの飄々とした顔に見えるはずだが。

「どうして。君は、繰り返しの毎日に飽きてたんだろう?」

フェイズは足をとめて、俺を見上げる。

「いや、そういうのも、悪くないと思ってたさ」

嘘だな。
俺は変わることを望んでいた。
しかし、この変化、俺の望んでいたものとは少し形が違う。

「そう」

フェイズは再び歩き始める。

「どうせ僕は明日になったらまた忘れてしまう。君が少し羨ましい」

簡単に言い切るこいつに、俺は苛立ちを隠せない。

人の気も知らないで、と

「忘れるほうと、忘れられるほうと。どっちが苦しいと思うか?」

わかっている。
その言葉に俺が怒るのは間違っている。

あいつは、珍しく少しばかり傷ついたような表情をした。

「・・・そうだね。・・・ごめん」

謝られたとたん、後ろめたい気持ちがずしりと俺の肩にのしかかる。

違う、お前は悪くない

口を開いたが、言葉は突然鳴り始めた時計の音にかき消された

ボーン・・・

これは12時を告げる鐘の音だ

ボーン・・・

フェイズは真剣な表情で振り返った

ボーン・・・

「アレックス」

ボーン・・・

フェイズの声はよくとおる

ボーン・・・

「大丈夫。もう、僕は」

ボーン・・・

赤い瞳は 俺をしっかりと映している

ボーン・・・

「君のことは忘れない、絶対に」

ボーン・・・

一つ一つしっかりと紡ぎだされる言葉

ボーン・・・

俺は何も言えない

ボーン・・・

フェイズはいつものように微笑んだ

ボーン・・・

最後の鐘がなる

ボーン・・・

「おやすみ、アレックス」

最後の鐘の余韻が消えぬうちに、
あいつは突然ガクリと膝をおって頽れた

俺は淡々と、その身体を片腕で抱きとめる

腕も首も、すべてが力なくしな垂れている。

死んだように眠る・・・
いや、事実死んでしまった体を抱いて、俺はその顔を見下ろした

きっかけは何であれ。
こいつが自分から相手に興味を持ったのは初めてではないだろうか。
少女達の一人、リースと言ったか、の顔を思い浮かべる。

まぁ、俺だって人のことは言えない。
ただ俺の場合、あの行為が純粋に好意だけから出たものかと問われるとそれは自信がない。
僅かに、あてつけの意味も含まれていたと思うからだ。

空いた手は、無意識のうちに冷たい唇をなぞっていた。

酷く渇いた自嘲の笑いがこぼれる。

「さて、お姫様に、この呪いがとけますかね」

呟いた声は、自分で想像した以上に冷たい響きを伴った。

虫がいい話だ。

こいつに 呪いをかけたのは、他ならぬ俺自身に違いないのに



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