忍者ブログ
RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
[34]  [35]  [36]  [37]  [38]  [39]  [40]  [41]  [42]  [43]  [44
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「ま・・・白銀に聞いたって無駄だよな。コイツ、喋れねーし」

やや毒気を抜かれたような表情で、思い出したように呟く翠緑に、双子がからかうような視線を向ける。

「あら、知らないの翠緑?」
「そうよ、白銀は喋れるのよ」

だけどおバカさんは相手にしないのよね、と声を合わせて双子が笑う。

「ま、マジかよそれ!」

翠緑が驚いた表情を向けたが、次の双子の返答は淡々としていた。

「嘘よ」
「そうよ、嘘よ」

盛大に翠緑が転ぶまねをした。次第に声を顰めることも忘れていく三人を無視したまま、白銀は腕の中の銀の髪をそっと撫でる。すると、赤い瞳が薄く開いた。

「そんなこともわからないの、翠緑」
「そうよ、だから翠緑は、おバカさんだって言うのよ」
「お・・・お前らなぁ・・・!!」

「・・・・・・何してるのさ、君達」

双子に虚仮にされ、今にも殴りかからんばかりの体勢になっている翠緑に呆れたような声が振る。

「・・・だ、団長・・・」
「まぁ、深紅!起きたのねっ!」
「深紅!待ってたのよっ!」

白銀の膝の上で体を起こした少年・・・深紅に、双子が嬉しそうに抱きつく。受け止めた勢いで少々よろめきながら、深紅は端正な顔を不機嫌そうに歪める。

「全く・・・騒々しいったらないよ」
「す、すんません・・・」

翠緑は首を竦めて謝ったが、双子は気にする様子もなく、お互いの腕と腕を繋いで、その真ん中に深紅を閉じ込めるようにしながら楽しそうに話しかける。

「深紅、寝顔も可愛らしかったわ!」
「そうよ、子供時代もさぞ可愛かったに違いないわ、って言っていたのよ」

深紅のルビーのような瞳が微かに翳って、眉根が顰められる。

「子供時代?」

バツが悪そうに頭をかきながら、翠緑が続ける。

「俺たち団長の子供の頃のこととか知らないッスからね」
「知りたいわ。でも白銀は話してくれないでしょう?」
「一番 深紅のことを知っているのは白銀なのに。ずるいわ」

「・・・聞いても面白い話しにはならないよ。それより、早く開幕の準備をしないと」

深紅は、白銀から降りようとしたが、その両腕に双子がしがみ付く。

「群青・・・薄紅・・・」

深紅が溜息をつくが、二人はしっかりと腕を握ったまま放さない。

「面白いとか面白くないとか関係ないわ!」
「そうよ、だって深紅のことだから知りたいのだもの」

深紅は、視線をあげてちらりと白銀を見た。白銀は何も言わず、ただ膝の上に深紅と双子の三人を乗せたままじっと座っている。 赤い瞳はどこを見ているのか分かりにくいが、だけど深紅は彼が自分を見ていることを知っていた。

「やれやれ・・・。わかったよ、後で話してあげるから。とにかく今は僕達の公演準備をしなくては」

その言葉に、双子が両側からそれぞれ深紅の頬にキスをして喜ぶ。

「約束よ、深紅!」
「きっとよ、深紅!」

やっと腕を放して双子が下に降りる。深紅は、翠緑、群青、薄紅、白銀と順にその顔を見た。

「この街では最初の公演だからね。皆、いつものように頼むよ」

深紅が幼い外見に関係なく、サーカスの長らしい口調で言うと、どんと翠緑が胸を叩いた。

「まーかせて下さいって!」

群青と薄紅が手を繋いで踊るように跳ねながら答える。

「心配いらないわよ、深紅」
「そうよ、今日も私達は絶好調なんだからっ!」

頼もしい仲間達に、深紅は満足そうに笑む。
そんな深紅の背を、ぽん、と白銀が叩いた。 振り返ると、ガラスの瞳が何かいいたげに彼を見ている。

「心配ないよ、白銀。ここには君が居る、皆が居る。だからもう・・・大丈夫さ」

そう力強く言って、深紅は正面を見据える。
既に翠緑によって部屋の押し上げられた幕の外から、明るい光が中に差し込んでいた。
深紅は双子に急かされるように腕をひっぱられる。 赤い道化衣装を纏った背中が部屋から出て行くのを静かに見送った後、白銀はただ一人背後を振り返った。

サーカスに使う大小の道具達の一番奥。彼の姿をも全て映せるほどの大きさの姿見に視線を留める。 その鏡面は外からの光を反射していて、ここからでは何を映してるのか確認することは出来ない。
白銀は、しばらくじっとその鏡を見つめていた。だが、鏡面は揺らぐことなく光を受け止めている。
暗闇はもう、あの鏡には映っていない

それを確かめると、白銀は部屋の電灯を消し深紅の後を追うようにゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。


再び部屋の幕が全て下ろされて、暗闇に沈んだ部屋の中。

沈黙する道具達の中で、鏡だけが静かで穏やかな光を放っていた。
その中心に映るのは幼い少年の姿・・・





[序幕 End]


Back << Top >> Next

PR
忍者ブログ / [PR]

バーコード
ブログ内検索
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
樟このみ
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
ファンタジーでメルヘンで
ほんわかで幸せで
たまにダークを摘んだり
生きるって素晴らしい

かわらないことは創作愛ってこと

管理人に何か言いたいことなどあれば
メールフォームをご利用下さい。
最新CM
[08/08 いつか]
[06/29 いつか]
最新TB
カウンター