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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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補足:
夢の中は不安定で、常に流動する星屑達(以下:星)が浮遊している。
星は、磁石に集まる砂鉄のように、意志を持つ夢主の傍に集まりその夢主のイメージから世界の形を成す。

イメージが強い・弱いなどにより強度に多少の差はあるものの、基本は夢主が眠りから目覚めることで再び流動してバラバラと崩れる。

兄弟達に対しても、時には星は”夢”を見せる。だが、兄弟の中でも力の強いものはその心を他に読み取らせない為、基本は”夢”をみせられることはない。





ちりちり ちりちり

鈴の音のような音を立てながら瞬く星たちの合間に、少年は かつての自分を見つけた。
かつての自分は、幼い子供の姿をしている。

ちりちり ちりちり
少年の歩いたときに出来る渦に揺られて、また星が音を立てる。
その音で、子供が少年の存在に気が付いた

「・・・こんにちは。それともこんばんは?」

首を傾げて挨拶をしてきた子供に、少年は少し落ち着かない気分になる。
子供は少年が何か言うのを待っていたようだったが、何も言わないのでもう一度首を傾げた。

「・・・ねぇ」

ちりん
子供が足元の星を爪先でつついた。

「あの人は元気?」
「・・・あの人?」
「えぇっと・・・ね、黒髪で背が高い・・・」

少年は 思い当たる人物があったのであぁ、と言った。
だけどその名前を出すのは躊躇われた。
しかし真摯な瞳でこちらを見つめてくる子供に根負けする。

「・・・クリソベリルのことか?」

ぱっと、子供の顔が笑う。

「そっか、クリソベリルって言うんだね、あの人。ぼくには名前、教えてくれなかったから」

言葉の後半、彼は自嘲気味に微笑んだ。
外見は幼い癖に、複雑な表情を見せる子供に、少年は胸に何かがつかえたような気持ちになる。
苦しい。悲しいのではなくて、苛々して。

「ねぇ、あの人は元気?」
「・・・・・・あぁ」

返事は、殊更ぶっきらぼうになってしまった。
だけど子供はそんな少年の反応は意に介さず、ぽんと嬉しそうに手を叩いた。

「よかった、もう元気なんだね!」

”もう”。随分知ったような口だ。
この子供が、彼の何を知っていたというのだ。

ちりちり ちりちり
星の光が、少年の毛先に触れて、少しばかり焼いていった。

「そっか」

苛立ちを隠せない少年には気付かず、子供は笑っているような、泣いているような、微妙な表情を作った。

「まだ ぼくのこと、覚えてくれているかなぁ」

幼さに似合わない 大人びた表情で、子供が独り言のようにぽつりと呟いた。
少年は胸を鋭い刃物で刺されたかのようにビクリと反応する。

ちりちり ちりちり
ちりちり ちりちり

星達が耳元で騒々しい。
苛立ちが、最高潮に達して顔が熱くなるのがわかった。
それでもできる限り落ち着いて言葉を返そうと、彼は意識して単語を探す。

「君は・・・君は昔の僕だ。 今の僕は彼といつも一緒に居る。だから忘れる筈は・・・」

彼の努力も虚しく、確かめるように吐き出された言葉はとても苦しげだった。

「違うよ」

しかも、必死に紡いだ言葉がぴしゃりと子供に遮られる。

「きみはぼくだったけど、今はぼくじゃない。ぼくときみは違うよ」

子供の言葉に、少年は思わず 縋るように弱い表情を見せてしまった。
子供は、そんな少年を怒ったような表情でじっと見つめていた。

ちりちり ちりちり
星の瞬きが早くなったように感じる。
もしかしたら、それは彼の心臓の音かもしれなかった。

もしも心臓と呼べるものが彼の体にあるのならば・・・だが。

「成長したんだ。もう子供じゃない。そんなの当然だ」

苦しい部分を知られても、まだ少年は冷静になろうと努力した。
子供が、少年の言葉に眉尻を下げて訴える。

「ねぇ、そうじゃないよ」

地団太を踏み出しそうなそんな歯痒い表情をしている。
子供はそれだけしか言わなかった。

けれど、子供の次の言葉は星たちの囁きとなって彼の心に直接響いた。

ちりちり ちりちり

―――――― きみは誰? ――――――

ちりちり ちりちり



先ほど熱くなった躰が、今度は急速に冷えていくようだった。

「・・・僕は 僕だ」

無意識のうちに、口の端から掠れた言葉が零れる。
彼は目を逸らしていたので、子供がどんな表情をしていたのか知らない。
ただ長い長い沈黙がそこにあった。

ちりちり ちりちり
星達の瞬きは正常に戻ったようだ。

先に沈黙を破ったのは子供だった。
いや、正しくは第3者の気配が、と言うべきか。

「あ、あの人 が来たみたいだね」

子供は嬉しそうに言ったが、少年は、尚も視線があげられなかった。

「いいな君は。いつもあの人と一緒に居られて。名前を呼んでもらえる」

だけど、子供がそんなことを言ったので、再び少年は声を荒げてしまった。

「バカを言うな!君は僕だ!君はいつか僕になるからそんな 心配はしなくていいんだ!」

泣きそうなのは、そう叫んだ少年の方だった。

「・・・ぼく は ぼく だよ」

その言葉を残して、子供は フッと姿を揺らめかせて消えた。

ちりん
涼しげな音を立てて星が動いた。

「・・・・・・・・・っ」

自分の選択が間違っていたと、彼は暗に責めていたのだろうか。
かつての自分にさえ、今の自分は見捨てられてしまっているのだろうか。

一人残された少年は、きつく拳を握り締めた。

ちりちり ちりちり
星達は変わらずそこにある。

「お父様!」

背後から、少年を呼ぶ声が聞こえた。
いや、それは本当は、少年自身のことを呼んでいるのではないのだけれど。

「・・・・・・クリソベリル」

それでも、少年は呼び声に応えた。
心は熱いのか、冷たいのか もう良く分からない。
彼は目を伏せる。

「どうかしましたか。そんなところで、何をしているんです」

黒髪で背の高い青年が、少年の傍に姿を現した。
会いたかった。
ううん、今は 会いたくなかった。

「うん、ごめん。ちょっと・・・・・・夢を見ていたみたいだ」

少年の言葉に、青年が眉を顰める。

「・・・何の冗談なんです? 私達は夢を見ることはできないでしょう」

青年の言葉に、少年はくすりと自嘲的な笑いを零した。

「見ているじゃないか。眠らないだけで、僕達はいつも夢の中だ」

そういいながら、彼は手を伸ばして身近な星に触れた。

ちりんちりん ちりんちりん

星達がぶつかりあって、騒がしく鳴り響く。

「・・・お父様?」

― いいな君は
― いつもあの人と一緒に居られて
― 名前を呼んでもらえる

子供の声が聞こえた気がした。

「ねぇ、クリソベリル」

少年が青年を見上げると、彼は困惑したような表情で彼を見下ろしていた。

「君は僕を覚えている?」

笑うように、睨むように。少年は青年に視線を投げる。
青年は、今度は呆れたように溜息を吐いた。

「・・・何を言っているんですか、お父様。 今、私の目の前に居るのに」

彼は理解しないだろうと、わかっていた。
いや、したくないのかも知れない。
だからそれ以上言うのは止めた。

「うん、そうだね」

するりと青年をすり抜けるようにして、通り越す。

「・・・・・・」

背後で、青年が何か言いたそうにしている気配がした。

言わなくても、少年は分かっていた。
すり抜けたときに、また彼の中の星の声を聞いたから。

彼はまだ不安なのだ。

いつも強い光を纏う彼。
だからこそ、足元には暗い影がある。

ちりちり ちりちり
少年の意図に気が付いて、星達が躰の中を駆け巡る。

そうだ。僕は彼の為に今の僕でなくてはならないんだ

大丈夫。かつての僕のことなど気にすることはない。
この僕だって、僕に違いないのだから。

少年は真っ直ぐ顔を上げて、正面を睨むように表情を引き締めた。
だけど直ぐに頬を緩めて、微笑みながら振り返る。

「ほら、行くよ」

少年が声をかけると、青年は僅かに安堵したようだった。
頷いて、後を付いてくる。

そして夢の中を行く彼らの周囲。

ちりちり ちりちり
ちりちり ちりちり

星達が 夢を紡いでいた。



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