忍者ブログ
RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
[24]  [25]  [26]  [27]  [28]  [29]  [30]  [31]  [32]  [33]  [34
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「私達の村はここからずっと南にある、とても小さな村よ。皆で協力しあって畑を耕し、豊かとは言えないけど日々の暮らしには十分な糧を得て、細々と暮らしてた。皆良い人達で、仲が良くて、ずっと平和で幸せだった。アイツが壊すまでは・・・」

 午後、二人の様子を見に再びやってきた俺達に向けて、リィンが静かに語りだした。
 リースはベッドの上に体を起こし、静かに聞いている。容態は随分と良くなったようだ。リィンは彼女のベッドに、俺はその傍の影に鏡台の椅子を引き寄せて話を聞いた。フェイズだけが一人離れて、この城で一番大きな部屋の窓辺に凭れるようにして座っている。傾き始めた太陽の光が、フェイズの手首の金属に当たって光を部屋の中に拡散させる。

「・・・気が付いたときにはもう、森の中にアイツの城があった。そして、アイツは突然やってきて村の収穫の一部を差し出すように、と私達に言ってきた。足りなければ、村人で補え、と」

 リィンが、自分の膝の上に置いた手をぎゅっと握り締める。

「逆らえなかった。だって逆らったらやっぱり殺されてしまうと分かっていた。だから、私達は必死で働いて、なんとかアイツの言う分だけ納めようとした。だけどやっぱり・・・足りなかったの」

 リースが自分の胸に手を添えて、悲しそうに瞳を伏せた。

「村人で補え、って、要するにアイツへの生贄にしろ、ってことよね。逆らっても勝てないと知っていても、こればかりは私達、素直にアイツの要求をのむことはできなかった。
 だから、皆、慣れない武器を持ってアイツを倒そうと旗を揚げた。だけど・・・そうして武器を持った皆が・・・ッ・・・」
「原因不明の病に倒れた・・・か」

 言葉を詰まらせたリィンに変わって、俺が繋ぐと、彼女は苦しそうに頷いた。
 武器を持ったのは村の男達。彼らが病に倒れれば、村は有力な働き手を失うことになる。つまり、税を納めることができない・・・そして結局・・・。

「何人もアイツの城に捕らえられて、帰って来ない。内からは病、外からは吸血鬼。このままじゃ、本当に村は全滅してしまう。でも、北に住む魔女が・・・、どんな病でも治せる薬をつくるって話を聞いて・・・せめて病気だけでも治せれば違うかもしれないって・・・。私達はその魔女を探すために、なんとかアイツから逃げ出して、ここまで来たの」

 瞳を必死に見開くことで涙を堪え、リィンは口を引き結ぶ。
 リースがそんなリィンを慰めるように手を伸ばし、リィンはリースに静かに上半身を預けた。

 二人が途中の村を素通りしてこんな山奥までやってきたのは、その北の魔女とやらに会いに行くためだったらしい。確かに、その北の魔女の話は俺も聞いたことがある。魔力に長けていて、あらゆる病に関する知識があるという。彼女にかかれば病を治すことは勿論、逆に病にすることも簡単なのだそうだ。

 ただ彼女自身は滅多に自分からは人前には出ないし、また、彼女の元へたどり着くのも容易ではないと言う。それは、強大な魔力を持つもの達の暗黙のルールだ。

 強大な魔力を持つ。それは存在しているだけで周囲に与える影響力が大きいということを意味する。時間・場所・人・・・大きな魔力は存在するだけで他の何かを歪める。だからそういう輩は大抵、人里離れた場所に結界を張ってひっそりと暮らしていることが多い。

 実在したとして、人間に容易に見つけられるわけがない。運良く辿り付いても薬が貰えるかわからない。貰えた所で再び村に帰り付ける保証もない。村に戻って病気を治したところで結局皆吸血鬼に食われるだけかもしれない。もとより信憑性の低い噂話で、全てにおいて確率が低い。なのにここまで苦しい旅をして来る程、彼女達は本気で、必死だったのだろう。

 浅はかではある、が、俺は嫌いじゃない。

 村を襲った吸血鬼とやらの監視を抜け出せたのも偶然じゃないだろう。リースの纏った、聖なる魔力のおかげに違いない。

「・・・なるほどな」

 俺は、納得して息を吐く。

 フェイズに視線をやれば、あいつは腕を組み、真面目に聞いているのかいないのか判別のつけがたい表情で二人の少女を見つめていた。

「原因不明の病・・・それはきっと病気と言うより、呪いだな」

 俺が呟くと、二人の少女は驚いたように顔を上げた。

「呪い?」
「あぁ。俺達モンスターが得意とする魔力の使い方さ。確かにそれでは普通の人間の医者では治せないな。術者以外が呪いを解くには、呪いに関する相当の知識と魔力が必要だ」

 通常の魔法は、その場で発生し、その場で効力が終わる。だが、術者が離れても半永久的に効力が続くもの・・・それを"呪い"と呼ぶ。一時的な魔法に対して本格的な陣や道具、長い呪文の詠唱が必要だったり、かなりの魔力を要するなど非常に手間がかかる。だがその分・・・効果は絶大だ。
 リィンが絶望的な表情を作る。

「そんな・・・じゃぁ、もし魔女に薬を貰えても、意味が無いってこと・・・?」

 いや、と俺は首を振る。
 何せ相手は魔女だ。あらゆる病に関する知識を持っているというのが本当なら、呪いに関する知識もあるに違いない。人間の言う病気にならない俺達の、唯一の病と言えば呪いに他ならないからだ。
 人里から離れるほどの魔力を持っているというのなら、解くことだって可能かもしれない。

 俺の言葉に、リィンの翠の瞳に静かな意思の炎が燃える。

「なら、やっぱり魔女を探すしかないのね」
「すると、あとは魔女の居場所か・・・・・・」

 このまま闇雲に探したところで見つけられるとも思えない。時間ばかりが無駄に過ぎていって、それでは彼女の村は本当に全滅してしまうだろう。
 協力してやりたいという気持ちより、俺は自身がその魔女に興味が沸いた。そうだ、何故気が付かなかったのか。もしも、その魔女が呪いを解けるというなら、俺達にもメリットがある。

「仕方ない、鏡に聞くか」



Back << Top >> Next

PR
忍者ブログ / [PR]

バーコード
ブログ内検索
カレンダー
02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
プロフィール
HN:
樟このみ
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
ファンタジーでメルヘンで
ほんわかで幸せで
たまにダークを摘んだり
生きるって素晴らしい

かわらないことは創作愛ってこと

管理人に何か言いたいことなどあれば
メールフォームをご利用下さい。
最新CM
[08/08 いつか]
[06/29 いつか]
最新TB
カウンター