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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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 途中で通りかかった廊下・・・昨夜、大騒ぎをした場所は元通り・・・とまではいかないが、それなりに綺麗にはなっていた。辺りに散在していた破片は一箇所に纏められ、割れた窓には不恰好な木の補強があてられている。その補修された窓の下にもう一山、転がっている巨大なゴミ。
 こいつが居ることを完全に忘れていた。哀れ、フェイズにはなんの関心も持たれなかったらしいそれは、俺が近付く気配を察知したのかのろのろと顔を上げる。

「一応、真面目に掃除したみたいだな」
「・・・うるせぇ・・・」

 屈んで揶揄うと、狼野郎は首だけを上げた状態で弱々しく牙をむいた。タフな奴でも、一晩中一人で片付けをさせられてさすがに疲れたらしい。だが労わってやろうとは思わない。そもそも自業自得だからな。



 昨夜、来たときと同じように窓から出て行こうとした狼野郎の肩を、俺はしっかりと掴んだ。毎度毎度、城を破壊するだけ破壊して逃げられたんでは堪らないからな。

「お前な、帰る前にこれを片付けていけ」

 俺が辺りを指し示すと、狼野郎はぽかんとだらしなく口を開いた。周囲に散在するのは、破壊された窓、激闘で壊れた壁、そして石像の破片。そして、やっと理解したのか目を見開いて反論する。

「はぁ!?なんで!?半分はアンタだろ!?いやいや、一番散らかしたのはそいつだろ!?」

 奴がフェイズを指差す。確かに、フェイズが投げた石像の被害が一番デカイ。だが俺はその腕を叩き落としてから、逆に人差し指を奴に突き立てた。

「全部、お前が勝負を挑んできた結果だ。明日の朝までに片付けとけ」
「朝!?巫山戯・・・・・っ」

 文句を言おうとしたらしき言葉は途中で止まり、奴は顔を青ざめさせて一斉に毛を逆立てた。さすがに、見えなくても勘は良いらしい。奴の背後にはこの城の使用人が二人、静かに佇んで冷気を送っている。

 使用人といっても、只の使用人じゃない。この城に住む俺たちが人間でなければ、勿論使用人も人間ではないのだ。彼らは実体がなく、普通の人間には見えない存在・・・所謂ゴースト。

 実体がないのにどうして使用人として成り立つかと言えば、彼らが魔力を有しているから。彼らの魔力を持ってすれば触れられなくても大抵のことはできる。しかも、この城に無数にいるゴースト達の魔力をあわせたら、俺の魔力だって遥かに越えてしまうぐらい、彼らの力は強い。やろうと思えば、城一つをふっとばすぐらいは朝飯前だろう。

 ただ、有り難いことにゴースト達は主に忠実だ。いつも無表情のため感情があるのかどうかは詳しくは知らないが、彼らは文句一つ零すことがない。彼らはこの城のいたるところで、城に住む者達の世話をする。食事、掃除、そして行きたい方向へと廊下の燭台の火を燈すことまで。

 知る由もないだろうが、あの二人の傍にもずっと憑いている。

「・・・わかったか?うちの使用人達が、ちゃんと見張ってるからな。逃げたり、手を抜いたりするなよ?」

 俺が念を押すと、奴は毛を逆立てたまま牙を見せて唸る。心なしかいつもより弱々しい。

「・・・この野郎・・・覚えてろよ・・・」

 今まで見逃していてやったんだから、感謝して欲しいくらいだ。俺は、わざと優美に微笑んで見せる。本来なら、女性にしか向けないようなとっておきの微笑。全くもって大サービス。

「これに懲りたら、せいぜい大人しくしてることだな、ワン公」

 折角の微笑もあいつの癇に触れたらしく、さらに牙を剥いて狼らしく吼えてきた。
 贅沢な奴だ。

「てめぇ・・・いつか本当に、ぶっ殺す・・・!!」

 吼えたところで周囲を使用人達に囲まれて逃げることはできなかった奴は、俺とフェイズがいなくなった後、真面目に城の掃除をしていたようだ。



 俺が昨夜のことを反芻していると、奴は自分の背を指差して唸った。

「ちゃんとやったんだ、早くこいつ等をどかしやがれ」

 口調にいつものような覇気はない。ゴーストに憑かれたのか、掃除に疲れたのか・・・。あるいは両方か。なんにせよ、十分堪えたようだ。

「本当は完全に元通りにしろといいたいところだったが。まぁ、これで許してやるか」

 俺は右手を上げて、ゴースト達に合図を送る。使用人達がふわりと狼野郎から離れた。奴は露骨にほっとした顔をしたが、すぐに驚愕で固まる。奴の傍らで、集められた破片がふわふわと元の位置に戻り始めたからだ。

「・・・な、なんだと・・・!?」

 次々と浮かび上がって有るべき場所に戻っていく破片を狼野郎が目を見開いて見つめている間に、城の優秀な使用人達は壊れた部分をあっという間修復していった。
 窓も壁も、勿論、フェイズが投げたイルカの石像も。まるで何事もなかったかのように、完全に元通りだ。周囲には塵一つ見当らない。

 狼野郎が掠れる声を絞り出した。

「・・・てめぇ・・・もしかして、ハナッから・・・」

 俺はにやりと笑う。
 そう、本当は別にこいつに掃除なんとさせずとも、ゴースト達の力をもってすれば一瞬で片付いたことだ。

「これで懲りたか?」

 奴は肩を震わせていたが、やがてがっくりと項垂れた。どうやら憤る気力もなくなったらしい。

「・・・覚えてろ!」

 バカの一つ覚えのようなセリフを吐いて、前のめりにばたりと倒れ込む。そして聞こえきたのは可愛くない寝息・・・。眠ったらしい。
 ったく、こんなところで寝られたら邪魔でしょうがないだろうが。

「どこかの部屋に運んどいてくれ」

 俺が言うと、邪魔な巨体はふらふらとどこかへ運ばれていった。
 それを見送った俺の背後。甲高い怒鳴り声が廊下中に響き渡った。

 俺は思わず頭を抱えたくなる。

 ・・・そうだ、城が綺麗になっても、こっちは片付いちゃいなかった。



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