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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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最大級の悲鳴は声にならない。
もはやこれまでに起こった事件なんて、私にしてみれば些末なことに成り下がっていた。

埃を払いながらこちらへ戻ってきたアレックスと狼男の二人も、その光景を見て固まっている。

私は急いでリースの腕を掴んで引き戻して、その顔を覗き込んだ。
彼女は口許を手で抑えて顔を真っ赤に染めている。

対するフェイズの方は、酷く涼しげな顔だ。
腹の底から怒りが湧く。

「サイテー!!酷いわ!なんてことするのよ!」

私が食って掛かれば、彼は飄々と答える。

「感謝の気持ちは、言葉だけじゃなくて態度で示せって。アレックスの教えなんだけど」

名前を出されたアレックスは、乱れた髪を掻きあげながら呆れた様子で言う。

「フェイズ・・・お前、肝心なことはすぐ忘れるくせに、どうしてそう、どうでもいい事はしっかり覚えてんだよ・・・」

完全に部外者である狼男は気楽にへらへらと笑っている。

「手が早いところは飼い主に似ちまったんだな」

飼い主という言葉にアレックスの瞳がまたきらりと光り、狼男に鋭い視線を送った。

あぁ、もう、信じられない!!
私は、落ちていた石像の破片を投げつけて叫んだ。
痛くはなかったはずだが、二人は驚いた顔をこちらに向ける。

「もう沢山よ!これってどういうこと!?あんた達は一体何なのよ!?」

私の悲鳴にも似たその言葉に、諸悪の根源たる三人は顔を見合わせた。
そしてアレックスが肩を竦める。

「ま、人間じゃないわな。俺は吸血鬼だし」
「俺は見てのとおり。狼男だ」
「僕は・・・何だろう・・・。知らないけど、人じゃないと思う」

あっさりと答える三人。
最早分かりきってたことだけど。
事実として確定してしまうと、やっぱりショックだ。

「せ、折角・・・吸血鬼からなんとか逃げ出してきたのに・・・」

私は、思わず膝をついた。

「苦労して辿りついた先がまた吸血鬼の城だなんて・・・あんまりよ!!」

アレックスが腕を組んで壁に寄りかかり、金の双眸を眇めた。
例え埃を被ってたって、美形には違いないけど。
もう、見惚れたりしない。

「何言ってるんだ。ちゃんと親切にしてやっただろ?」
「どうせ、これから血を吸うつもりだったんでしょ!?」
「そりゃ宿代分ぐらいは払ってもらわないとな。慈善事業じゃ生きてけねーし。だが別に、命までは取ったりしないぜ」

彼の話し方も最初の頃の気取った調子が抜けて、随分とフランクな感じになっている。

「信じられないわ!貴方だって吸血鬼でしょ!?」
「おいおい、吸血鬼という枠で一括りにしてくれるなよ。吸血鬼だって色んな奴が居るんだよ。そういう意味で言うなら、人間の方がよっぽど酷いことすると思うぜ?フェイズがいい例だ」
「何の話よ」

私はアレックスを睨む。
フェイズはきょとん と、狼男はにやにやと笑いながら成り行きを見守っている。

「どっちにしたって、分かってたら入ってこなかったわ」
「はいはい、今度から表札でもかけておきますよ。吸血鬼の城、とでもね」

完全に嫌味だ。
私は無言で立ち上がった。

「おっと、出て行くつもりか?」
「居られないでしょ、こんな城」
「好きにしろ。だが、夜の森を出歩くのは自殺行為だぜ。道に迷って野垂れ死ぬか、野犬に食われて終るか。運良く夜が明けたところで、お前らの荷物。あんな軽装じゃ、とてもじゃないが旅なんて続けられないと思うね」

悔しい。

悔しいけど、アレックスの言う通りだ。

立ち上がったはいいけれど、踏み出すに踏み出せない足をじっと見つめていたら、リースがそっと近付いてきた。

私は顔を上げられない。

それでも、彼女が今、クロスに触れていないことはわかった。
彼女の手が伸びて、私の手に触れる。

「リィン」

リースが私の名前を呼んだ。

酷く、懐かしくて優しい響きがした。

私は、おそるおそる彼女の顔を見上げる。

リースはそっと微笑んでいた。

「大丈夫」

握った手に、力がこめられる。

どうしよう。
もう、涙がとまらない。

「ごめんね、リース、ごめんね」

謝ると、リースが肩を抱いてくれた。

「リィン。リィンが謝ることなんて、一つもなかったわ」

リースはそっと囁くように言葉を続ける。

「変わってるけど、それほど悪い人達じゃないと思うの。だから、無理しないで」

不安で、怖くて仕方なくて。
でも、なんとか自分の力で守りたくて。

なんて沢山の事があったんだろう。
これまでの出来事が私の胸に去来する。

早く村に、皆のところに帰りたい。

私はリースの肩に額を伏せて、今までの苦しかった思いを全部流した。


私の気分も落ち着いてきた頃、それまで黙って待っていたアレックスが徐に口を開いた。
先ほどより、口調は随分と穏やかだ。

「まぁ・・・信用しろと言っても難しいかもしれないが。歓迎すると言ったのは本当だ。俺たちと関わりたくないと言うのなら別にそれはそれでいい。好きなだけ、滞在していけ」

「有難うございます」

リースが頭を下げてお礼を言った。

「へぇ、珍しいこともあるもんだ」

狼男が感心したように、こぼす。

「この城も、ちょっとは明るくなるね」

フェイズが暢気に笑う。

私は一人、気を引き締める。
とりあえず、今日の危険はもうなさそうだけれど。

だからといって、安心はできない。
彼等だって完全に信用できるわけじゃないのだし。

私達の本当の旅の目的はまだまだずっと先にあるのだから。
負けないわ。私達は必ず村に帰るの。

決意を固めた私の前に、いつの間にかアレックスが歩み寄ってきている。

「ほら、リィン。あとはお前だ」

そう言って、彼は手を差し伸べてきた。
私はリースから身体を離して彼に向き直った。

非常に、不本意だけど。

不承不承、手を差し出して握手を交わす。

「・・・よろしく・・・お願いします」

すると突然、私は腕をぐいっと引っ張られた。

状況を理解するのに要した時間は3秒ほど。

次の瞬間、私はアレックスの体を勢い良く突き飛ばした。

「な、な、な」

私は口を抑えたまま、言葉にならない声を発した。
アレックスは、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべている。

「よろしく」

悪びれない笑みに、消えかけていた怒りがまたふつふつと湧き上がってきた。

そして私の怒りは、夜の古城に騒々しく響き渡った。

「あんたたち、絶対・・・、絶対、許さないんだからーーーっ!!」




+ 第1章 End +



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