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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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 二人が玄関前に辿り着いたとき、中に誰も居ないと思われた屋敷の扉が突然バタンと開き、少年が咳き込みながら飛び出してきた。 後ろで一つに括った赤毛が、彼の軽快な足運びに合わせて跳ねる。 両手に抱えるようにして持っているのは大きな布の山。

「げほげほ。ったく、冗談じゃないっての。なんで イキナリ掃除させらなきゃなんないんだか・・・」
「あ、ディオン!」

 ぶつぶつと呟きながら、玄関前で抱えていた布を広げようとした少年に、ルークが名前を呼びながら駆け寄る。 その声に顔をあげた赤毛の少年は、二人の姿を視線に捕らえると怒ったように声をあげた。

「あぁーー! やっと来た! オマエら言いだしっぺのくせに 遅いんだよっ!」
「よぉ、ディオン。なんだか随分お洒落じゃないか」

 赤毛についていた埃を指先で摘み取りながらベリルが揶揄すると、うるせーとディオンがその手を払った。

「ったく・・・聞いてないぜオレは。 新しい家が、こんな何年も使われてないような屋敷だなんてさ。どの部屋も埃まみれ。 掃除しなきゃ部屋にもうかうか椅子にも座れないってんで、皆で慣れない大掃除だぜ。 やること山積みなんだから、オマエらも早く手伝えよなぁ」

 やっぱりか・・・と呟くベリルを、ディオンはその深海のように青々とした瞳で睨み上げた。

「だいたい規模が小さめの屋敷ったってなー、フロアに大小10は部屋があんだぜ。俺達だけで掃除しろとか無理な話だって!」
「だからって人を雇うわけにもいかないだろ。兄弟水入らずで過ごすつもりなら」

 答えながら、ベリルの視線がちらりとルークを見た。ディオンも眉を少しだけ上げてルークを見る。
 二人の視線が自分の背中に集まっているとも知らず、ルークは開け放されたままの玄関から屋敷の中を覗き込んでいる。 玄関ホールは薄暗いが、一応ランプは灯されているようだ。 頭上のウサギ耳が、中の音を拾おうとしてか、きゅっと内側を向く。

「ねぇディオン。 他の皆も お家のお掃除してるの?」
「おう。最初は全員でキッチンからやってな。何とか使えるようになったから、そのままボレオはキッチンで茶会の準備してるけど。他の皆は、またそれぞれどっか掃除してる筈だぜ。スピネルなんて、不機嫌な顔がさらに不機嫌な顔になってたから、ありゃ後で相当 文句言われるな。覚悟しとけよー」

 そう言いながら、ディオンは持って来た布を広げて、ばさばさと振った。 どうやらどこからか持って来たテーブルクロスか何かだろうが、一振りするたびに もわっと白い埃が舞い上がる。 どれだけ年季の入ったものか、それだけで知れるというものだ。
 ディオンの近くに立っていた為に その埃をもろに被りそうになったベリルが怒る。

「こらアホ!もっと離れたところでやれ」
「へへ、いいじゃん! お上品な白猫サマに変身で、女性にさらにモテるようになるぜ?」

 冗談を言って笑うディオンをベリルが小突く。すると玄関の内側から、おやおや、とのんびりとした声が聞こえた。

「随分、賑やかですねぇ」

 姿を現したのは、三十代ぐらいの眼鏡をかけた男だった。 いかにも優しそうな、穏やかな笑みを浮かべている。片手には、大きなハタキを持っていた。その格好がなんだか嫌に似合っている。

「オクト!」

 ぴょん、とルークが男の腰あたりに飛びついた。 ハタキを持っているのとは別の手で頭を優しく撫でられて、ルークが嬉しそうにぎゅっとズボンを握る。 そのまま、オクトと呼ばれた男は表情と同じように穏やかな口調で挨拶をした。

「お久し振りです、ベリル、ルーク。元気にしてましたか」
「うん、僕は元気だよ」
「あぁ、遅れて悪かったな。他の奴らは?」

 オクトには素直に謝ったベリルの様子に、ディオンが背後でいーっと歯を見せた。

「ボレオはキッチン、シェルが庭。ディーンがあちこちの修理を。残りのメンバーで部屋を手分けして掃除しているところです」
「そうか・・・終わりそうか?」
「そうですねぇ、やっぱり兄弟12人が揃ったとは言え、今日中に屋敷掃除を終わらせるのは難しいと思います」

 オクトが笑みを絶やさないままベリルに答えると、ディオンが両腕で大きくバツマークを作った。

「ムリムリ、ぜーっったいムリ!」
「煩いぞ、ディオン」
「とりあえずは使うところから集中的に掃除しようと思ったのですが。 それでも部屋の一つ一つが小さいものじゃないので、食堂だけでも日が暮れそうなんですよ」
「ふーむ。 さすがに日が暮れると、一番の目的を達成するにはちょっとキツイな」

 ベリルの言葉に、ルークがちらりと不安そうな表情を向けた。 ベリルはそんなルークに心配はいらない、とでも言うように微笑む。

「そうだな、今日は天気もいいことだし。庭にテーブルと椅子を運び出そうか」
「おや、ガーデンパーティですか。いいですね」
「お外でやるの?ピクニックみたいで楽しそう!」
「おーっ、賛成ーっ!とにかく掃除しなくていいならいいや」

 ベリルの提案に他の3人が賛成を示す。だがベリルはディオンの額をこん、と拳で叩く。

「何言ってんだ。掃除はできるところまではやるんだよ。どっちみちボレオのケーキが焼きあがるまでは時間があるだろ」
「椅子とテーブルも運び出さないといけませんね」
「でーーっ、結局 掃除と力仕事かよーー!」

 ベリルとオクトの言葉に、山積みの作業を思い浮かべたのか、ディオンががっくりと項垂れた。


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