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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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「  」

不意に少年の名前を呼ぶ声が聞こえた。一瞬、目の前の人形がついに話すようになったのかと思って凝視してしまったが、そんな筈はない。

「  」

もう一度名前を呼ぶ声が聞こえ、少年は道化ウサギから顔を離す。
部屋の扉が少しだけ開いていた。 扉の影に隠れて、声を発した者の姿は見えない。だが、その声を彼は知っている。他でもない、少年の母親の声だ。

母親が子供の名前を呼ぶのは、世間一般では至極当然のことだ。 しかし彼の生活にはずっとそれが無く、突然のことにどう返していいか戸惑ってしまった。

母親は少年の前には姿を見せないまま、扉の隙間から肘から先だけを覗かせて揺らしている。 ゆっくりと上下に揺れるそれが、おいでおいでと 自分を招いているのだと気付くのに数秒かかった。

「お・・・お母さん?」

彼が彼女を呼ぶと差し込まれている手が一度びくりと震えたが、再びゆっくりと上下に揺れる。

「  、こちらにいらっしゃい」

母親が確かに彼の名前を呼んだ。 突然のことに躊躇う少年に、母親は少し焦ったように繰り返す。

「ほ、ほら、おいでなさい。迎えにきたのよ」
「はい」

迎えにきた、の言葉に少年の顔は輝く。 嬉しくて思わず椅子を飛び降りながら、道化ウサギの手を忘れずに掴んで引き寄せる。 そして、ぽんぽんと人形を跳ねさせながら扉に駆け寄った。
母親は慌てたように付け足した。

「待って。  。目は閉じて。しっかり瞑って頂戴。良いところに連れていってあげるから」

彼はちょっとだけ悩んだが、立ち止まって、言われたとおりに目を閉じた。

「うん、お母さん。僕、目、閉じたよ」
「・・・そ、そう。そのままにしていなさい。良い子ね」
「うん」

彼は、ぎゅっと目を瞑ったまま頷いた。
きぃ・・・と扉がゆっくりと開く気配がした。

ふわりと空気が動く気配がして、彼の手に温かいものが触れた。
母親の手だと気付いて、少年は 目を開いて抱きつきたい衝動に駆られる。

母の顔が見たい、ぎゅっと抱きしめて欲しい。

だけど彼は口には出さなかった。 母親が言うことを聞く彼を”良い子”だと言ってくれるのなら、良い子のままでいたい。 だから、余計なことは何も言わなかった。
せめてと、覚えている範囲での母親の顔を頭に想い描く。とても穏やかで、優しげに笑う母親の顔を。

「じゃあ、行きましょう」

返ってきたのは想い描いた顔に当て嵌めるには不似合いの、感情のない冷たい声。その声と共に ぐいっと手をひかれて彼は自分の部屋を出た。
よろめく様にして踏み出すと、廊下の空気がヒヤリと冷たい手で彼の頬を撫ぜる。

部屋から出たのは、一体いつぶりだろう。
彼は自分が住んでいる部屋の外がどのようになっているのか、実は良くは知らない。 彼が今よりも小さかった頃は・・・父親がまだ自分と母親の傍にいた頃は、もっと彼の世界は大きく沢山の人間達が居たのだが。 彼の能力が周囲に知れる度、その世界は小さくなり、そして周囲の人間も減っていってしまった。

部屋から出るなという理不尽な言いつけに、それでも彼は子供らしい我侭一つ言わず、毎日ずっと待っていた。

やっと、迎えに来てくれたんだ。

手を引かれながらじわじわと彼は嬉しくなった。
彼が母親を最後に見たその時。 彼女の手は冷たくやせ細っていた。 だが今、彼の手を握る手は、ふわりと暖かい。それは一緒に、まだ幸せの中に暮らしていた頃の母の手と同じで。 だからまた、以前のように一緒に暮らせるのかも知れない。 だって良いところに連れて行ってくれると言ったから。 それ以上何も言わないのは、びっくりさせるつもりだからだろうか。

手を引かれるまま よろよろと歩いていた少年の足取りが、次第にしっかりとした早歩きに変わる。

母親は何も声を発しなかったが、少年には不安はなかった。
一人じゃないから大丈夫。

彼は片腕に大切なウサギの人形を抱き、そしてもう一方の手で強く母親の手を握った。
目を瞑ったままの彼の頼りは、温かな母親の手だけだった。



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廊下を歩いて、階段を降り、再び少し歩いて階段を降りた。
肌に触れる空気は、下に降りる程にひんやりとして、湿気を帯びていくようだ。
どこか埃臭い香りもしていた。

唐突に母親が立ち止まった。

「まだ目を開けては駄目よ」

母親が少しイライラしたように声を発した。
少年は何も言わずに、ただこくりと頷く。

じゃら、と金属の束が触れ合う音がして、何かがカチリと嵌まる音がした。
扉の鍵を開いたんだ、と少年は目を閉じたまま理解した。

重そうに軋む音を響かせて、扉が開く。

「さぁ、入りなさい」

頼りにしていた母の手が離された。
思わず立ち止まるも、背中を押されて少年は恐る恐る前へ進んだ。 目を閉じていても、周囲がふっと暗くなったのが分かった。 外に出たわけではなく、どこかの部屋の中に入ったらしい。
先ほどよりも強くなったカビや埃の匂いがつんと鼻孔を突く。
知らない場所に、ぽつんと一人で立たされて。喜びに満ちていた気持ちを不安が覆っていく。
少しでも確かなものを求めて、無意識のうちに腕の中の人形を強く抱きしめながら、彼はそっと母親を呼んだ。

「お母さん」

彼の声は何も無い空間に吸い込まれて消えてしまったようだ。
母親は返事をしない。 彼に続いて部屋の中に入ってくる気配もなかった。
まだ目は瞑っていないといけないのだろうか。

「お母さん」

もう一度呼ぶも、返事はない。
変わりに、バタン、と戸が閉まる音がした。
次いで聞こえたのは、ガチャリと鍵がかかる音。

反射的に彼は目を見開いて背後を振り返った。

部屋の中は薄暗くて良く見えない。
でも自分が狭い部屋にいるのはわかった。 その部屋の扉が閉められているのもわかった。 母親は部屋の中には居ない。
期待が打ち砕かれて、まさかと思った現実が母親の呟くように吐き出された言葉に肯定される。

「さよなら、  」

急ぐように扉から遠ざかる足音が聞こえた。

さよなら?

折角会えたばかりなのに、彼女はどこへ行くというのだろう。
迎えにきたのだと言ったのに。

「お母さん!」

彼は扉に跳び付いた。
抱いていた人形が床の上に落ちて埃にまみれたが、そんなことはもう彼は気にしてはいられなかった。

両手でノブを掴み、扉を開けようと必死で回す。
だが、緩んだドアノブがガチャガチャと音を立てるばかりで、扉の開く気配はない。
母親の足音は、立ち止まることなく次第に遠ざかっていく。

置いていかれてしまう。
悲しい思いが、彼の全身を冷たく凍らせる。

「お願い、開けて!」

少年は扉の向こう側に呼びかけた。
しかし、返事は当然返ってこない。

「ねぇ、開けてよ!!」

もう誰もそこに居ないことは知っていたが、それでも扉にしがみ付いて叫んだ。

「開けて!! 出して!!」

小さな手のひらで、精一杯扉を叩く。だけど分厚い木の扉は 震える気配すらない。
硬い扉に拳を打ち付けて、手が赤く腫れ、声が枯れても。
諦めきれずに一心に、彼は長いこと呼びかけ続けた。

良い子にしていて欲しいというなら、望まれるだけの良い子になる。
表に出るなと言うなら、一生部屋の中に閉じこもっていてもいいから。

可愛がってくれなくてもいい、一緒に居られたらそれだけで嬉しいのに。

背後の小さな窓から夕日が差し、部屋を仄かに赤く染めた。 扉に映る自分の頼りない影。 その向こうに、ここには居ない人の温もりを求めながら少年は最後の声を振り絞って叫んだ。

「行かないで、お母さん!!!」



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 いつものように”ジャンクロット”で使えそうなパーツを探すパレット。そしてその傍には当然のようにダイちゃん。

 ジャンクロットはコッグタウンよりもセントラルに近い為、セントラルのビル群が良く見える。「父さんの居る場所」とパレットはもう少し良く見たくて、高い場所を探して登る。とは言え、適当に積み上げられた機材は不安定で、パレットが降りようとした瞬間に足場が崩れる。
 ジャンクと共に落下したパレットだったが ダイちゃんが助けてくれたおかげでパレットは無傷だった。しかし、助けた際にダイちゃんはジャンクと激しく接触したらしく一部が破壊され、電源も落ちて動かなくなる。

 ショックを受けるパレット。 一瞬「父さん」に連絡を取ろうと通信機を手に取るが、仕事の邪魔をしたくないと思いとどまる。 涙を拭いて、一人黙々とダイちゃんの部品を拾い上げ、そして電源が入らないために飛ばすこともできず、総重量が5キロ以上あるダイちゃんを一人でなんとか家まで持ち帰る。

 そしてパレットは 寝ずに必死にダイちゃんの修理をする。しかし、どうしても起動まで辿り着かない。 ダイちゃんがいなければ独りきりで寂しい家。パレットは謝りながら修理を続ける。
 と、その時、家の戸を誰かが叩く。時刻は夜で既に修理屋も閉めている。ダイちゃんが居ないことで、心細く思っているパレットが戸を開けるのを躊躇っていると 自分の名前を呼ぶ声。
 その声を聞いて、パレットは思わず駆け出して戸を開く。そこに立っていたのは、パレットの父親だった。

 ダイちゃんはパレットのボディガードロボットであり、もともとはパレットの父親が作ったものである。パレットに何か大きな危険などがあった場合、父親に知らせが行くようになっていた。ダイちゃんは壊れる前に、父親に知らせていたのだ。
 とるものとりあえず駆けつけてきた父親はパレットの無事な姿を見て安心する。そして、パレットの話をきいて、直ぐにダイちゃんの修理にとりかかった。
 父親に謝るパレットと、パレットの無事を喜びダイちゃんの性能に満足する父親。幸い、データは壊れていなかったため元通りに戻せると父親。だからパレットに寝るように言うが、パレットは父親と一緒に居たいから傍にずっとついている。

 次の日の朝、いつの間にか寝てしまっていたパレットはダイちゃんに起こされる。ダイちゃんはもう元通りに直っていた。喜ぶパレット。だが、父親の姿は既になかった。
 がっかりするパレットだが、父親の置メール(?)を見て微笑む。

 そしてダイちゃんを抱きしめて、早く一人前になって父親の手伝いができるようになろうと改めて決心するのだった。

+第一話 END+



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「あなたはどうして逆さまに歩けるの?」
「逆さま?上も下も右も左もないよ。ここは夢の中なんだからなんでもありなのさ」
「なんでも?」
「そう。逆に言えば確かなことなど一つもないってこと。ここはドコだかわからない。僕は誰だかわからない」
「あら、確かなことならあるわ」
「へぇ?どんなこと」
「”私”が”ここ”に居るということ」
「え?」
「私が誰かということも、ここが何処かということも関係ないわ。でも、私はここに居るの」
「君は本当に君なの?」
「私は誰になっても私なのよ」
「・・・ぷっ、ははっ!君って随分かわってる!」
「そうなのかしら?」
「そうだよ。大抵、誰でも、ここがどこか自分が誰か考えるものさ。わからないと不安にならない?」
「でも、今の私は私が私であることを知っているもの。 そうね、今、私に何もできることがなかったら私は不安になると思うわ」
「できること?」
「そうよ。私は今、貴方と会話できるし、こうしてほら、歩くこともできるし。これから何をしようかと考えられる。そうやって、何かをやろうと思っている間は不安にならないわ」
「これから・・・か」
「あなたはどうするの?」
「僕?」
「そう。これからあなたはどうするの?」
「・・・・・・君は僕も信じるの?」
「どういう意味?」
「僕がここにいること」
「信じるわ。だってあなたは ここに居るもの」
「そう?居るように見えて、居ないのかも」
「そうね・・・あなたは私じゃないから。 ねぇ、それなら手を繋いで。それで分かるわ」
「・・・手?」
「あなたにもついてるでしょ?ね、手を繋ぎましょ」
「・・・・・・うん」

「ほら、あなたも確かにここに居るわ。私は貴方に触れているもの。あなたも、私がここに居るって確かめられた?」
「・・・あぁ」
「ふふ、あなたの手、温かいわ」
「うん、君の手も」

「私はセレネよ。えぇと、今は、ね」
「くす・・・僕はクレスだよ」
「クレス?」
「うん」
「私ね、あなたと一緒で嬉しいわ」
「え?」
「思ったのだけれど、やっぱり私にできることがあっても、ここに一人だったら不安だったと思うの。でもあなたが居てくれたから不安にならなかったんだわ」
「・・・・・・セレネ」
「何?」
「僕も・・・僕も君と一緒で嬉しいよ」
「えぇ、有難う」


そして少年は目が覚めた。
手のひらに残る少女の温もり。
見つめながら彼は呟く。


「君はここに居た・・・?」



――――― セレネ ―――――



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※ 初期設定
※ 現行との違い ⇒ クレスの父母は既に他界している。クレスは後妻の子

「学者になるだと?」
「えぇ」
「ならん。例えこの家を継ぐのがお前の兄だとしても、お前にはその補佐という重要な役目がある」

「勿論、お前にはしかるべき相手をきちんと選んで結婚させる」
「僕にはもう、心に決めた女性が居ます」
「それはどこの誰だ」
「わかりません」
「お前は私を馬鹿にしているのか」
「いいえ」
「だけど僕は、その女性に会うために探しに行きます」





「巫山戯るな。そんな我侭が許されると思うのか。立場というものを考えろ」

 ランプの灯り ひとつだけに照らし出される薄暗い室内に、低い男の声が響いた。 葉巻の煙と一緒に吐き出されたその声は、怒りに満ちていて、静かだが他を圧倒させる力を帯びている。 その声音と同じだけ、他を圧倒させる力を持つ瞳が、目の前の少年を見据えていた。
 しかし少年はその言葉にも視線にも臆することなく、目の前のその男に・・・自らの父親に、睨み返すような強い視線を返した。 普段は晴れた青空を映したかのような色の瞳も、今は小さなランプの炎をうけて夕焼けのように燃えていた。

「これは僕の意志です。家を継ぐのは兄さんが居ます」

 ゆっくりと、強い口調で少年はきっぱりと言う。 少年から青年へと成長段階にある彼の声音は、男らしい低い響きの中にまだ微かな子供らしさを残しているが、それでも彼の父親の覇気に劣りはしなかった。

「お前は・・・態々 私に勘当されたいと言うのか」

 なんど繰り返した問答か。 少年は身動ぎもせずに父親を見つめていたが、内心では溜息を吐いていた。
 結局 今彼らが論じているのは、お互いの信念が全く違うものであるからなのだ。 どちらかが、それを折らなければ和解はなく、それはどちらかが心を捨てるということだ。

 そんなことができるわけがない。
 お互いに譲ることができないのだから、きっと分かり合うということは不可能なのだ。

「・・・そうしなければ、相容れないというのであれば」

 言葉なく、二つの視線がお互いを見つめた。
 疲労か、悲しみか。

「去れ」





「兄さん・・・・この家を宜しくお願いします」
「ふん、恥さらしが。お前などに言われなくとも」





「あぁ、クレス!クレス!待って、お願い考え直して頂戴。家を出るなんてそんなこと。それに勘当だなんて」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、お母様。今日まで僕をここまで育てて下さったお父様とお母様には本当に感謝しています。けれど・・・このまま あの家で一生を終わらせる気はないのです。今まで僕はそれ以外の人生を知らなかったけれど・・・僕はもう、自分の道を見つけたんです」

「だからって・・・外のことを何も知らない貴方が、家を出てどう暮らすというのです」

「大丈夫。いろいろ教えてくれる友人がいるのです」

「友人?貴方に?そんな筈はないわ! 何より、身体の弱い貴方が・・・もし、何かあったら・・・!」

「・・・・・・お母様。僕の気持ちは変わりません。今まで有難うございました」

そういうと、少年は振り返ることなく、自分の家を後にした。



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