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RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
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 誰かが自分を見つめている。 睨むような双眸。 だがその瞳は絶望を湛えている。
 その瞳の持ち主である青年の、凛とした声が 暗闇に響いた。

― 私達を 置いていくのですか

 それは、彼を責めている。

 すまない。
 僕は願うことしかできない。

 君達にも いつか帰る場所ができることを。

― 私達は・・・私は、あなたの元が帰る場所だと


― 待ってください!


『 お父様! 』







RabbitHome 『 Phase00:Prologue 』







「お父様、お父様ったら、起きて」

青年の声が いつの間にか幼い少女の声に摩り替わる。

「・・・ビス?」

「そうよ、お父様。ねぇ、起きて! 今日は一緒に公園に行く約束でしょう?」

「あぁ、あぁ、そうだったね」

「珍しいわね、あなたが寝坊するなんて」
「あぁ・・・なんだか夢を見ていて」
「どんな夢?」
「いや・・・もう良く覚えていないんだ。なんだか懐かしくて・・・悲しかったような気がするな」

「ねぇ、お父様。今日は公園に一緒に行く約束よ」
「あぁ、そうだったね」

「じゃあ、行って来るよ、セレネ」
「行ってらっしゃい」


「ビアトリス、そんなに走ると危ないよ」
「あ」

「危なかった。大丈夫ですか小さなレディ」
「あ、あの大丈夫です。ありがとう」

「あ、」
「これのことですか」

「良かった!クリソベリルへのお土産だったの」
「クリソベリル?」
「クリソベリルっていうの。猫の名前よ。真っ黒の」
「あぁ、そうでしたか」
「石の名前なんですね」
「知ってるの?」
「知っているとも」
「ママのパパが、えっと・・・いしのがくしゃさん?だったんだって。だからお家に沢山あるの」
「へぇ」
「あの子は瞳が きらきらと金色に輝いていたの。だからクリソベリル」

「そういえば、あなたの瞳も金色なのね!髪も真っ黒で・・・うちのクリソベリルにとても似てるわ」
「そうかい?」

「あ、お父様!」
 青年がコチラをみた。 娘に向けられていた穏やかな瞳が、一転して鋭く細められる。 彼は思わず足を止めた。 睨まれているから竦んだわけではない。 何かを確認するように、青年の視線をひたと据えられて。その瞳が酷く真摯だったからだ。
 一瞬、時がとまったかのように思えた。
 そして、青年が口を開く。

「・・・お父様?」

 その響きは、彼の胸の何かを酷く揺さぶった。青年は、娘の言葉を確認したのだけにすぎないのに。

「・・・え」
 彼がたじろいだ次の瞬間、青年は再び表情を一転させて穏やかな笑みを浮かべ、立ち上がった。
「失礼、この子のお父様ですか?」
「あ、あぁ、そうだ」



「こら、ビアトリス! あんまり先に行くなといったろう。すみません、相手をしてくれてたようで」
「いや、いいんですよ」
 青年は爽やかに笑った。



 その端整な顔から受けた最初の印象とは違い嫌味なところが一つもない笑顔だ。


「パパー、見てー!」
「・・・元気な娘さんですね」
「はは、妻に似て好奇心旺盛で大変なんだけどね」
「いいことじゃないですか」
「お転婆で困るよ」
「子供は元気が一番です」

「君・・・どこかで会った事が?」
「・・・いえ」
「まぁ、この公園にはよく来るので、すれ違ったことぐらいならあるかも知れませんが」

 そうか、と頷いたクレスに青年は唐突に問うてきた。

「幸せですか?」
「え」

 思わず顔を見返す。青年は穏やかに微笑みながらもう一度、幸せですか、と問うた。
 クレスもつられて、微笑んだ。

「あぁ・・・。これ以上無いほど、僕は幸せだ」
「それは、本当に良かった」
「君は・・・」
「私も幸せです。可愛い弟達に囲まれて、毎日が晩餐会のようで」
「パパ!そろそろ始まっちゃうわ」

急く娘を片手で制して、クレスは青年に思い切って聞こうとした。

「・・・君は・・・もしかして・・・」

 だが、そう口にしたときには既に青年の姿はなかった。
 呆然と、クレスは立ち竦む。



「ルーク、ビアトリス、お帰りなさい」
「ただいま、アリス」
ふと気配を感じて振り返る。
「あなた?」



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それは夢だった。

名前どころか、カタチすらない、ただの夢の欠片の一つに過ぎなかった。

ふわふわと意識の狭間を漂う、未だ頼りない小さな夢の欠片。

己の意思さえも持ち得ないものであったが、何の為に生まれたかを知っていた。

楽しい夢になるためだ。

夢を見たものの為に。
そのものに温かい気持ちを与える為に。

方法は知らない。
だが、望まれた通りにすればよいのだ。

その欠片は仄かに瞬きながら ゆっくりと漂い続けた。
いつしか他の夢の欠片とともに、川のように流れを作りながら。

気が付けば、周囲の欠片が自身に集まり始めていた。
ゆっくりと流れながら、一つ、また一つとその中へと。

その中の欠片が一つ増える度、それは次第に大きくなりそして放つ光を増していった。

大きな扉の前に辿り着いた頃には、それはもう、欠片などではなく。
カタチもあり、意志もある、一つの存在だった。

彼は得たばかりの小さな腕をいっぱいに伸ばして扉に触れ、
初めての言葉を 舌足らずに囁いた。

「きっと・・・・・・きっと君に 楽しい夢を見せてあげる」

開いていく扉の先には、光が溢れている。




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それはとても幸せないつかの夢



【1-1:The Golden Afternoon 01】



 パチン、と何かが小さく弾けるような音を聞いて、幼い少年ははっと顔をあげた。 その目に見えたのは、街角の雑貨屋のガラス張りのショーウィンドウにうつった自分の顔。 きょとんと 間の抜けた顔で、こちらを見つめ返している。
 年の頃は8歳程度。 子供らしくぷっくりとした弾力のある頬に、小さいけれど筋の通った鼻。 大きくて紅玉のように赤い瞳。 金の髪には癖があって、毛先がぴょんと跳ねている。

「あれ、僕・・・・」

 彼がおそるおそる片手を持ち上げると、ガラスに映った自分も同じように片手をあげて、頬に触れた。
 なんだか今、自分が違うものであったような気がしたけれど。 ガラスにうつっている自分の姿は、いつもとなんら変化はない。
 少しばかり首を傾げて、もう一度 自分の姿を確かめようとした瞬間、背後でガラガラと大きな音がした。 驚いて飛び上がってしまってから振り返ると、背後に停車していた2頭立ての馬車が駆け出したところだった。

「あ」

 追いかけようとすると、突然に視界が真っ暗になった。わ、と小さく叫んで、彼は慌てて視界を覆った物をつかんでぐいと上に引き上げる。
 彼の視界を覆ったのは 彼の頭の上にのっていた黒いトップハットだった。 それは子供の頭には少しばかり大きくて、偶にこうして彼の頭をずり落ちて視界を遮ってしまうのだ。

 間に合わずに走り去っていく馬車を横目で見て、少年はため息をつく。 そしてもう一度 雑貨屋のショーウィンドウに向き直り、ずれたトップハットをきちんと かぶりなおした。

「僕がもう少し大きかったらなぁ・・・」

 小さな頬が、不服そうに膨れる。 しかしその仕草が自分でも あまりにも子供っぽいと思ったので、彼は直ぐに表情を元に戻してなんでもない風を装った。 実際、彼はどうみても子供だったが、そう見られることが時折不満らしい。
 小さくため息をついて、もう一度 背後を振り返る。 雑踏を見渡し、行きかう人々の中に視線を投じた。

「ベリル・・・・・・遅いなぁ・・・」

 求める人影が見当たらなくて 彼が足元の石畳を爪先で軽く蹴った矢先、聞きなれた声が聞こえて少年はぱっと顔をあげた。

「ルーク」

 声が少年の名前を呼んだ。
 その声の聞こえた方向、視線は迷うことなく一人の青年に据えられる。 彼に向かってゆっくりと歩いてくる、黒髪の青年だ。 年の頃は二十代半ば。 人ごみのなかにあっても目をひくのは、彼がすらりとした長身の持ち主という理由だけではない。

 丁寧に後ろに撫で付けられた癖のない黒髪、体を包む上等な布で誂えられた三つ揃えのスーツ。 ゆったりと歩く様は優雅で気品が有り、卑しくない身分であることを予想させる。 さらには、きりりと切れ長の双眸さえも上品な金色で。 とにかく文句のつけようの無い程、顔の整った青年なのだ。
 その証拠に、道行く貴婦人達が時折 彼の顔をみては溜息をついている。
 そんなことがなんとなく誇らしくて、少年は嬉しくなる。

「ベリルっ!」

 青年が辿り着くのを待ちきれず、ルークは青年に駆け寄ると そのまま飛びついた。
 ベリルと呼ばれた青年は慌てる様子もなく、街角で足を止めて少年が彼に抱きつくのを待つ。 視線をちょっとだけ下にずらして、そしてやんわりと微笑んだ。 端整な顔に浮かべられたその笑みはあまりにも完璧で、偶々通りがかってその表情を視界に入れた貴婦人達が足を止めて赤面してしまったほどだった。

「随分待たせたな。悪かった」

 ベリルが視線を待ち行く人々に合わせたまま、軽く目を伏せるようにして謝る。 ルークはぶんぶんと力いっぱい顔を振って否定した。

「ううん、僕、大丈夫。ちゃんと待ってたよ。それよりベリルもちゃんと用事、済ませられたの」
「あぁ。もう大丈夫だ。 全部 終わった」

 よかったね、とルークが笑いかけると、ベリルは少しだけ困ったように眉を寄せて、だけど穏やかに 微笑んで返した。 ルークは待ちきれない様子で、ベリルの手を引っ張るようにしてぴょんと跳ねる。

「じゃあ、皆のところに行くんだよね」
「そうだな」

 そのとき、通りにまた新たな馬車がやってきて止まった。 ここで、乗客を待つのだ。 ルークはその馬車をじっと見つめる。

「乗りたいのか?」
「え・・・あの、僕。別に・・・」

 ルークは恥かしそうに身を縮めた。あまり町に降りることのない彼には、何もかもが物珍しく興味を引かれるのだろう。 ベリルは懐中時計を懐から取り出し、軽く時間を確かめてパチンと蓋を閉めた。

「ちょっと遠いが、頼んで行けないことはないな」
「え?」
「ま、多少遅れても あいつらなら融通が利くから大丈夫だろ」
「それって、馬車に乗って行くってこと?」

 ベリルが頷くと、再びルークはぱっと顔を輝かせ、頭上のトップハットを押さえて馬車へと駆けた。 嬉しくて仕方がないらしい。
 そんな幼い後姿を見つめていると、どうしても顔が緩んでしまう。 ベリルは業とらしく堰をして顔を引き締めると、御者と交渉する為にルークの後を追った。


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[クレス(17)] 黒猫との出会い
[クレス(17)] セレネ(8)と夢の中で出会う

[クレス(17-25)] 大道芸で細々と暮らしつつ旅(8年間)

[クレス(25)] セレネ(16)との再会 / クリソベリルとの別れ(夢を忘れてしまう)
[クレス(25)] セレネ(17)と結婚

[クレス(26)] 長女ベアトリス(0)誕生
       ルーク誕生

[クレス(33)] ベアトリス(7)と共に、クリソベリルと再会 / ルーク(7)

[クレス(42)] ベアトリス(16)とクレスの後輩が婚約
[クレス(43)] 仕事で風邪をこじらせ、家族に見守られて永久の眠りに付く
 ルーク(17)が実体を得る
 11人の崩壊

[アリス(8)] ルークと出会う



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冷たい床の上で、彼は目を覚ました。 いつの間にか疲れて眠ってしまっていたらしい。
見上げた扉は変わらず硬く閉ざされていて、外にも内にも生きている物の気配は全くない。
耳を澄ましたところで、聞こえてくるのは自分の吐息だけだった。

あれからどのくらい時間が経ったのだろう。
叫び続けた喉はカラカラで、硬い床の上で眠った体はあちこちがキシキシと痛む。

声を出す気力も 既に無くて、彼はゆっくりと体を起こした。

視界に入ってきた狭い部屋の中には、箱や布や、なんだかわからない沢山の物が山と積まれている。
彼は知らなかったが、その部屋は屋敷の地下の一室で、そして長いこと物置として使われていた部屋だった。 山と積まれているのは実は骨董品ばかりで、中にはかなり高価なものも含まれている。
だが、知っていたところで今の彼には何の価値もない物ではあったけれども。

ぼんやりと見上げたその奥には二つの小さな窓が見えた。
部屋の奥の壁、彼には手の届かないような高い位置、ご丁寧に格子までついている小さな窓は明かり取りの窓だ。
差し込む月明かりは僅かで、周囲の暗闇は深い。だが、今が夜なのだということは分かった。

あそこから、逃げ出すことは可能だろうか。

ふと思うも、彼はなんとなく分かっていた。
ここから出ることができたところで、きっと行く場所など無い。
今まで自分が暮らしていたあの部屋へも、自分は戻ることは許されないのだろう。
これはそういう意味だ。

自分は置いていかれたのだ。
どうしてかなど、態々 問わなくても理由は分かっている。

自分が良い子ではなかったから。
自分が、普通の子供ではなかったから。

俯くと、視界をさらさらの髪が覆った。
ずっと切っていないために長く伸びた彼の髪。 こんな暗い場所でも良く目立つ、銀色の髪。
嫌いな髪色。

茶と金の髪を持つ両親から生まれた子供にして銀の髪は異質だった。 髪だけではない。 顔立ちも、瞳の色も・・・少年の全てが両親とは全く似ていなかったのだ。
父方の祖母は、彼を最初に見たときに妖精の取り替え子・・・チェンジリングだと言って気味悪がったという。

それだけだったら、きっと少年はまだ幸せに暮らすことができただろうに。

少年が己を異質の存在であるということを自覚するのに、それほど時間は必要なかった。
物心付いたときには既に”見えて”いたのだ。他人の考えていることや、その過去が。
それは瞳をあわせることができれば、人であれ動物であれ関係なかった。

彼の能力を理解するなり父親は去ってしまったので、良く覚えていない。
母親は最初は そんな彼を庇ってくれていた。

だけど周囲にいつも奇異の目で見られ、時には罵られ。 彼だけではなく、母親までも決して視線を合わせられることはなくなり。 美しかったその姿が次第にやつれていくのと同じように、彼女自身の心もやつれていってしまったのだった。

彼には母親の変化していく心の様子が、文字通り良く見えていた。
確かに自分を愛してくれていたものが、後悔や悲しみ・・・そして憎しみに侵食されていく様が良く見えていた。

自分のせいであることは分かっていても、状況を変える為に動くには彼はまだ幼い子供過ぎて。
精一杯に母を思いやった上で ただ一つ彼にできたことは、僕は良い子でいるよ、と言うことだった。 せめて母の言うことを良く聞く良い子であれば、母親の負担を減らせるだろうと思ったのだ。

だが状況は好転することなく、母親の反応も彼の期待するものとは全く違ってしまった。
そしてある日、母親は疲れきったクマのある顔で 彼をじっと見つめた。 乾いた唇がゆっくり動いて、その口から紡がれたのは、心の底からの呪いの言葉だったのだ。

いや、実際には口にはしなかったのかも知れない。 すっかり淀んだ光のない瞳で、彼を睨んでいただけだったのかも知れない。 それでも・・・例え心が読めるという能力など無くても、その瞳から彼女の絶望と、強い憎しみを知るのは容易だった。

それが、少年が母親の顔を見た最後だった。

その後すぐに少年はあの部屋に押し込められ、ここに連れてこられるまでずっと、部屋から一歩も出ることなく他の誰とも顔を合わせずに一日を過ごしてきたのだ。

母親の最後の目は鋭い刃となって守るものを無くした彼の心に深くつき刺さったが、今日まで彼は母親を信じていた。 温かかった母親のことを思い浮かべながら、ずっと良い子にして待っていれば いつかまた自分を迎えにきてくれて、一緒に暮らせるようになると思っていた。
その時までに自分は大きくなっていろいろ勉強して、今度は母親を守ろうと密かに心に誓っていたのだ。

こんな結末は考えてもみなかった。

でも、母親を責めることはできない。
例えば自分が普通の子供だったならば・・・と何度も考えてはその度に愚かだと打ち捨ててきたことを思わず考える。
今、自分は・・・家族は幸せだっただろうか。

全ては自分のせいだ。 普通ではなく、良い子になれなかった 自分のせいだ。
扉に背をつけたまま、両膝を抱えるように抱き込んで小さく蹲る。

「お母さん、ごめんなさい」

聞く相手のない謝罪の言葉は、彼の涙と共に冷たい床石に吸い込まれた。



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