忍者ブログ
RabbitHome作品 小説&ネタ公開・推敲ブログ(ネタバレ有)
[2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 俺が開く前に、内から扉が開いてフェイズが顔を覗かせた。押し退けて部屋に入ると、陽は既に暮れ、城で一番大きな窓も藍色のカーテンに閉ざされている。

 未だベッドの中で半身を起こした状態だったリースが、不安に翳る顔をあげた。

「どう、だったんですか・・・?」
「魔女は居る。ただ、会いに行く過程が面倒だな」

 リースの視線が、握り合わせた自分の手に落ちる。

「そう・・・。時間が、かかるかしら」
「大丈夫よっ」

 リィンが殊更明るい声を出して、リースの肩を叩いた。

「魔女が居ることも、そこまでの行き方も分かった。ただ噂だけを頼りに逃げ出してきた時より、ずっとずっと前に進んだわ。望みがあるんだもの、まだ頑張れる。きっと、皆待ってる」

 顔を覗き込むようにして微笑みを向けられて、リースも安心したように微笑んだ。

「・・・そうね」
「ま、どうせ直ぐには出発できないだろ。暫くはしっかり休んで、旅に備えるんだな。旅の準備は使用人に任せとけばいい」

 リィンがふと動きをとめ、それから首を傾げて俺を見上げてきた。

「ねぇ、さっきも思ったんだけど・・・。まるで、あなたも一緒に来るみたいに聞こえるわ」

 今更、と言った話だ。

「その通りだ」

 リィンとリースが顔を見合わせた。
 フェイズが驚いたように言う。

「アレックス、城を出るのかい?」
「勿論お前もだ、フェイズ」
「僕も?」

 フェイズが自分を指差してきょとんとした。

「ねぇ、協力してくれるのは嬉しいけど・・・でも・・・」
「親切すぎるのは逆に妖しいと?安心しろ、別に慈善事業じゃない。俺達も魔女に用がある。それだけだ。目的が一緒なら協力するのが普通だろ」

 その用とは何か、と、二人の訝しげな視線が俺に向けられた。どころか、フェイズまで理由が分からない、といった表情で俺を見ている。

「俺達は俺達にかけられた呪いを解きたい、ってことさ。それとも何か、俺達が一緒だと不満だって?」

 質問をされる前に質問をすると、リィンが言葉に詰まった。

「確かに・・・あなたたちが一緒だと心強いかもしれないけど・・・でも・・・でも信用できないじゃない」
「なんだよ・・・まだ吸血鬼だから信用できないって言うのか?」
「そ、それもちょっとはあるけど・・・」

 俺はその先を察して、盛大にため息をついてみせる。

「悲しいね、未だ信用がないとは」

 そしてリィンに顔を近づけて囁いた。

「キスした仲なのに」

 リィンの顔が一瞬にして真っ赤に染まる。平手が飛んで来たが、予測していた俺はそれをひょいと避けた。

「・・・っ!だ、だからあなた達のそういう所がっ・・・!!信じられない、って言っているのよ・・・!!変態!色魔!痴漢!色気違い!好色!ほんとに、信じられないっ!」

 あえて否定の言葉は返さない。まぁ否定できない部分もあるからな。言っておくが、勿論、変態と痴漢ではない。
 フェイズはくすくすと笑っている。

「笑ってるけど、あなただって同じなんだから!」

 鉾先がフェイズに向こうとしたところで、まぁ落ち着け、と俺はリィンの肩を叩く。ここまで反応してくれると、面白くて仕様が無い。

「あれは からかっただけだから、安心しろ。基本的にお前等は、俺の守備範囲外、だから」

 言い終わると同時に、俺は腹に盛大な鉄拳を食らった。

「・・・・っ!!」

 平手が飛んでくることは予測していたが、まさか腹に拳が来るとは思ってなかった。別にそれほど対したダメージではないが、思わず腹に手を当てて固まる。

「もー、やっぱり信じられない・・・!! あんた達、早くこの部屋から出てって!!」

 リィンがますます肩を怒らせて叫ぶ。
 フェイズが心底呆れたように呟く声が聞こえた。

「アレックス・・・・・・君、バカだね」

 あのなぁ・・・

 フェイズ、そのセリフ

 俺はお前にだけは言われたくない




+ 第2章 End +



Back << Top >> Next

PR
 後からリースに聞いた話。
 私とアレックスが部屋を出て行った後、フェイズとリースがどうしていたか。

 フェイズは言葉もなく、窓辺に座ったままずっと外を眺めていたらしい。
 声を掛け辛い雰囲気だったから、リースも黙っていたんだという。静かなのは嫌いじゃないから、とリースは言ってクロスを握った。静かな時間・・・彼女はそのとき、祈りを捧げていたのかもしれない。
 だけど唐突にフェイズは声を発した。

「僕は・・・」

 視線は窓の外を見つめたままだったから、リースも最初は自分に話し掛けているとは思わなかったそうだ。

「僕は昨日、君に酷いことをした・・・?」
「え・・・」

 フェイズは頬に手を当てて、呟くように言う。

「さっき、あっちの子に叩かれた」

 リィン?と、リースが聞くと、フェイズはゆっくり頷いて首だけで振り向いた。

「酷いことをしてしまったなら、謝らないといけない」

 私が彼を叩いたのは、リースって誰、と言ったからだ。キスをしておきながら名前も覚えていないなんて、って腹が立ったから。でもそんなこと、リースは知らないから首を振った。

「いいえ、何も。酷いことなんてされてないわ。寧ろ助けてくれたわよね・・・?」
「なら、良かった」

 フェイズは笑った。斜めに差し込む夕陽が、彼の顔に深い影を作って感情を読み取り難くする。

「・・・僕は・・・忘れてしまうんだ」

 彼は首を元の位置に戻して、また呟いたという。

「それも、呪いなんだね」

 良くわからなくて。特に返事を求められているようでもなかったから、リースは黙ってフェイズの横顔を見つめていたという。フェイズの顔を斜めに過ぎる大きな傷。私達は、まだその傷の理由は知らない。

「思い出せない。昨日のことですら」

 右手を上げると、彼の手首に嵌められた手錠に繋がる鎖が、重そうな音を立てる。彼はその手を自分の額にあてた。

「ずっと一緒にいるからなのかな。アレックスのことは分かるんだ。だけど君達のことは・・・」

 言葉が途切れて、視線が鎖に落ちた。

「君達に会ったのは昨日、なんだろ。だけど僕にとっては、今日初めて会った人だ」

 フェイズは私達のことも、昨日のことも全く覚えていなかった。忘れて飄々としている彼に、あのときは腹がたったけど・・・。今は叩いて悪かったな、と思う。別に彼は、忘れたくて忘れているわけじゃないし、忘れて良かったと思っているわけではないようだからだ。それはこの後、彼が言ったことで良くわかった。

「こうして話していても。明日になれば、また君のことを忘れてしまう」

 彼は顔をあげて再びリースに顔をむけると、じっと瞳をみつめた。飄々とした軽い雰囲気は消えて、すごく真剣な瞳だったから、視線が逸らせなかった、とリースは言った。
 彼はそうして、リースに謝ったんだ。

「ごめんね」

 と。

「それは・・・あなたのせいじゃないわ」

 リースはそれしか言えなかったという。

 後でアレックスから、詳しくフェイズの呪いの話を聞いた。フェイズは、眠って目が覚めると前日以降のことが思い出せなくなってしまうんだそうだ。基本的な生活習慣とか、毎日繰り返すことは覚えているという。だから、彼はアレックスについては、もう忘れないらしい。でも、覚えるまでに3年かかったけどな、とアレックスはため息をついていた。

 アレックスはそれ以上詳しいことを話したがらないけど・・・。彼はきっと、フェイズの呪いを解きたいんだ。

 ・・・呪いって、私はまだ詳しく知らない。村の皆の病が呪いだと言われて、だけどだから病気とどう違うのか、なんて実はまだ良くわからなかったし。ずっと同じ影響を及ぼし続ける持続性のある魔法、とアレックスは教えてくれたけど・・・。

 呪いは、変化がないまま繰り返す。フェイズは、彼の意思に関係なく毎日全てを忘れて新しい朝を迎える。村の皆は、治ることも悪化することも無い病をずっと味わっている。

 そうね、とにかく一日も早く呪いを解かなきゃいけないんだわ。



Back << Top >> Next

物に溢れるセントラル
人に溢れるコッグタウン
自然が少ない国、ギアフィールド

枯渇するエネルギーに対して、増える廃棄物
大きくなる壁
「要らないものなんて無い。だけど、一番大切な物は何――?」
世界と少女とロボットと
人々を乗せて、今日も歯車は回る――――



登場人物

パレット=ラント ―Palette=Lant―
碧の瞳に茶色の髪。コッグタウンC区で生活用品の修理屋を営む少女。現在14歳。
母親とは幼い頃に死別。父親セントラルで働いており、家に帰ってくることは殆どない。鯨型ロボットのダイを親友として大事にしている。
趣味は機械の改造だが、センスがないのが玉に瑕。いつか父親の手助けが出来るレベルになることを目指して、明るくて前向きに日々修行中!
「早く父さんの手伝いができるようにならなくちゃ。ね、ダイちゃん」

ダイ ―D.A.I.―
変化する人工知能 ―Daedal Artificial Intelligence―の略。
コッグタウンでは珍しい、高性能な鯨型ロボット。パレットの父親であるラント氏が、一人残される娘の為にと作ったボディガードロボットでもあり、いろいろと機能が搭載されているらしい。基本は空を飛んで移動する。パレットに危険があった際には、父親に知らせることも。
感情表現機能(EmotionalSystem)を備えており、パレットの友人としても頼れる存在。
「キュイッ!」

ラント氏 ―Mr.Lant―
パレットの父親。パレットが現在営む修理屋は元々彼が開いていた店。高い才能を認められて、セントラルで働くことを許可された。
優しく穏やかな性格で、一人娘であるパレットを大事に育ててきている。セントラルからの誘いも最初は渋っていたが、パレットに後押しされて決意。セントラルとコッグタウンの温度差が埋まることを願っている。
「便利になる。それが常に良いことだとは限らないんだ」

ケイタ=ストラディア ―Keita=Stradia―
18歳の少年。主に配線・配管関連の修理屋
守銭奴で客に対しては慇懃な態度をとるが、それ以外の人間に対しては非常に横柄。ある意味二重人格。

世界観

ギアフィールド ―GearField―
歯車の国ギアフィールド。セントラルを中心に、円形に広がっている。
セントラルを囲むように、ジャンクロットと呼ばれる廃材置き場があり、さらにその外側にコッグタウンと呼ばれる一般市民居住区がある。
セントラルよりコッグタウンまで、主要ライフラインが放射線状に伸びており、上空から眺めると歯車の形に見えることから歯車の国と呼ばれている。

セントラル ―CentralCity―
高度な技術により発展しているギアフィールドの中心都市。高層ビルが立ち並ぶ。街は整備されていて、清潔。但し、街に住めるのはそれなりの地位、及び財産がないと不可能。
オート化が進んでおり、生身の人間よりロボットのほうが多いと言われている。

コッグタウン ―CogTown―
ギアフィールドの外円を作る一般市民居住区域。セントラルに比べると、生活水準が非常に低い。ガラクタの寄せ集めで作られたような家が密集している。
ライフラインにより居住区は8つにわけられ、それぞれ、A区からH区と割り振られている。

ジャンクロット ―JunkLot―
コッグタウンセントラルの間にある、セントラルで不要となったガラクタが捨てられる場所。
コッグタウンの人間達は、ここから使えそうな物を拾い上げ、修理したり改造したりして使用している。セントラルの人間がコッグタウンの人間を、時に侮蔑の意味をこめて掃除屋(Sweeper)と呼ぶのはそのため。

修理屋 ―Repairer―
コッグタウンにて、最も必要とされている職業。修理で扱う対象により、さらに細かい区分がある。



Top

もうあとは、ここで静かに蹲って待つだけだと思っていた少年の耳に、不意に くぐもった小さな音楽が聞こえてきた。
聞き覚えのある優しいメロディ。 オルゴールの音色だ。

音のする方を見ると、彼の持って来たウサギの人形がそこに転がっていた。 ガラスでできた小さな赤い瞳が、じっと彼を見つめている。大切な人形だったのに、扉を閉められたときに取り落として、今の今まで忘れてしまっていた。

あちこち痛む体を頑張って伸ばし、落ちていた人形をそっと拾い上げる。
くぐもっていた音色が鮮明になった。
音はその人形から流れてきているのだ。

汚れを軽く手で払い落として、彼は人形を裏返す。この人形の背には小さなゼンマイがついていて、それを回すと内蔵されたオルゴールの音が鳴る仕組みになっていた。

だけど今、少年はゼンマイを回してはいない。なのに、どうして突然音が鳴り始めたのか。
不思議には思ったが、だからといってそれが何故かを考えることができないほど彼は疲弊していた。

だからその人形を胸元にぎゅっと抱き寄せて、じっと音色に耳を澄ませた。

母親との繋がりだった人形。だけどそれも もう、意味の無いものになってしまった。

彼の考えに呼応するかのように、人形から流れるメロディは次第にゆっくりとぎこちなくなっていく。
やがて、曲の途中で余韻を残して止まってしまった。


少年は静かに目を閉じようとしたが、瞼に優しい光を浴びていることに気付いて顔を上げた。
月明かりとは違う青白い光が、薄暗い部屋の中を満たし始めている。
周囲に積まれた骨董品のひとつ。 布のかけられた何やら大きなものが、布の下から光を溢れさせて輝いているのだ。

驚きに目を見開く彼の腕の中で、何かがもぞもぞと動いた。
彼が抱いているウサギの人形だ。

いや、動いているのではない。 人形の大きさが、次第に大きくなっているのだ。 そのことに気付いて彼は思わず、再びその人形を取り落としてしまった。

呆然とする少年の目の前で、道化ウサギはどんどん大きくなる。

やがて人形は少年の背を軽々と越え、大人の男性ぐらいの大きさぐらいにまでなった。 ウサギのガラス球の瞳が、じっと少年を見つめている。

以前のような、焦点のない冷たいガラス球ではない。 その瞳は、しっかりと少年に視線をあわせていた。 温かいような悲しいような、そんな気持ちで少年はガラス球の瞳を見返した。

するとウサギは視線を外し、ゆっくりと歩き出した。 その先には、今尚 青白い光を放っている骨董品があった。 ウサギはその骨董品の上に手をかけると、ばさりとかけられていた布を剥ぎ取った。 その下から現れたのは、大きな鏡だった。 ウサギの身長と同じぐらいの高さがある。

遮るものをなくして 鏡は益々青白い光を強くした。 眩しさに、少年は目を眇める。

逆光の中ウサギがこちらを振り向いて、手を差し伸べているシルエットが見えた。
それでも少年が動かないのを見ると、ウサギはちょこっとだけ可愛らしく首を傾げて、そしてちょいちょい と手招きをした。

その姿に悪意があるようには感じられなかった。
これは最後に見る夢なのだろうか。 ずっと何もかわらない静かな生活だった筈なのに。

少年はよろよろと立ち上がると、誘われるままにウサギの手を取った。
その手は、ふわふわすべすべしていて、そして温かかった。 ぎゅっとその手を握ると、ウサギはまた首を傾げて少年を見、そして空いたほうの手で優しく頭をなでてくれた。

枯れた筈の涙がこみ上げてきたが、それは鏡から溢れる強い光に遮られた

ウサギが鏡に触れるように手をあげる。 少年が片手をしっかりと繋いだままウサギの顔を見上げると、頷きが返ってきた。

こわごわと手を鏡の方へと差し伸べると、鏡面のあるべきところでも指先にはなにも触れず、するりと光の中に飲み込まれた。 驚いて思わず身を後ろに引いたが、ウサギが優しくその体を支えた。
励まされて、もう一度ゆっくりと手を伸ばす。 そして今度は足も前にと踏み出した。

少年とウサギの体が、鏡面に飲み込まれるようにして消えていく。

そうして少年とウサギをすっかり飲み込んでしまうと、鏡は光るのをやめた。
後には、暗闇に沈む部屋が残されていた。


【深紅の過去編】1章:追憶 END


Back << Top >> Next

「思い出した」

ルークがいつものように確かめるようにゆっくりと・・・だが唐突に言葉を発した。
ディオンはそんなルークに ちらりと視線を投げて先を促す。

「何を」
「忘れてたことを」

ガクリ、と頭が落ちて赤毛が揺れる。

「あんなぁ・・・だから何を忘れてたのかって聞いてんだよ」

形だけ怒っているような仕草をしながら、睨み上げるように青い瞳がルークに向けられる。
しかしルークはどこか遠くを見ているような表情で、顔をそむけたままポツリと呟いた。

「・・・ベリルは本当に・・・もう気にしていないのかな」

そう言ってから、ようやっと赤い瞳の視線が自分にむけられたが、ディオンは無言のまま 目線だけで先を促す。
ルークは少しだけ目を伏せて、言葉を選ぶ。

「えぇと・・・愛したことと、憎んだことと、新しいことと」

ルークは真剣に言っているのだが、ディオンはつまらない冗談を言われた時のような、酷く退屈そうな表情をした。 その対応に、思わずルークの方がきょとんとする。

「ルーク、お前、自分が愛されてるかどうかを疑ってんの?」

呆れたようにディオンが問うと、ルークは慌てたように首を振った。

「まさか」

そして自分の手のひらを見つめる。 ルークの手には手袋がはめられている。 彼の手にぴったりとフィットした、真っ白な手袋。
頭上に乗せられたトップハット以上に、その白い手袋が外される機会は少ない。

「それが本物だってことは、僕が一番良く知っているさ」

ぎゅっと、拳を握る。
そこにあるものを確かめるように。

「でも・・・本物だからこそ、辛いってこともあるだろう」

ディオンはいつものように茶化すような合いの手を入れることなく、じっとルークを見つめた。ルークは言葉を続ける。

「今は僕はちゃんと僕だけど。僕であるせいで僕ではない誰かと同じになってしまうのかも知れないから。
 僕は誰かにならないように・・・僕でないものであるようにした方がいいのかな」

今度はフリではなく 心底呆れた表情で、ディオンはルークの言葉を一蹴した。

「は、わっけわかんねぇっての!」
「・・・そうだよね」

諦めたように溜息をつくルークの背を、ばしっとディオンの手のひらが叩く。勢いで トップハットをずり落としながら、ルークは驚いた顔をディオンにむけた。

「ばぁーか!お前ってほんっとバカ」

呆然と口を開いたルークに言葉を発する暇を与えず、ディオンがもう一度言う。

「バカ。くだらないことばっか考えて時間潰すなよ、勿体ねーし」

形の良い、金色の眉が顰められる。

「くだらない?」
「くだらない」

間髪居れずに繰り返して、ディオンはびしりと ルークの鼻先に指をつきつけた。

「ルークはルーク。それ以上も以下も、変わりようがないだろっての」

視点を鼻先の指にあわせながら、赤い瞳が困惑に揺れる。

「成長しないってことでは ないかんな。お前は成長するが、その結果も過程においても、お前がルークでないものになることはないってハナシ」

指先をずらして、顰められたままの眉根を突く。いたっ、と小さくルークが言葉を漏らした。

「言ったろ。 お前が いくら成長したところで、お前がオレたちの弟だってのも変わらない」
「それ・・・似たようなことを ベリルにも言われた」

ディオンに指を突き刺された部分を手のひらでさすりながら、ルークが思い出したように呟くのを聞きながら、ディオンは っだー、と叫んで頭を抱える。

「ディオン?」
「あぁぁったくもう! ホンッとお前ら お互いのことしか考えてねーのな。 いちいちオレに言うなよ。 聞いてるこっちが疲れるぜ。ばからし」
「え」

もうメンドくさい!と言いながらディオンが背を向けてしまったので、ルークは何といって良いかわからずに沈黙する。
暫く、どちらも黙ったままだった。
やがて、ディオンが真っ赤な赤毛をルークに向けたまま、確かめるように言った。

「お前さ、ベリルに愛されてるって、わかってるって、さっき自分で言ったろ」
「・・・・・・うん」
「愛されてんのは今のお前だろ。だから いーんだって」
「・・・・・・」
「そのままでいーんだよ」

ルークが そのまま、と小さく繰り返す。

「同じことがあったとしてもお前はお前で、誰かは誰かで。それだけで意味が違うだろ」

そういって、ディオンはくるっとルークの方に向き直る。 そして片手でぱっと彼のトップハットを奪うと、もう片方の手でぐりぐりと乱暴に頭を撫でた。ルークは 呆然とされるがままになる。
そんなルークの頭を片手でしっかりと掴んだまま、ディオンは真正面からその瞳を覗き込んだ。

「不安になるのも分かるけどな、当たり前のこと言わすな。ってか本人に言えよ」

ルークが照れたように少し頬を赤くして、そして口を小さく尖らせる。

「・・・そんなの言えるわけないよ」

言葉を最後まで待たずに、ディオンはぱっとルークの頭を離した。

「そりゃ、怒られるに決まってるからな。ったく、それがわかってたクセに」
「・・・・・・ディオン、ごめん。有難う」

ルークが謝ると、別にいいさ。とディオンは片手をひらひら させて見せる。

「そのかわり、今度オレがお茶会の掃除当番になったときはお前に手伝わせるかんな」
「うん、いいよ」

微笑むルークの肩に腕を回しながら、ディオンは頼んだぜ、と笑った。



Top

忍者ブログ / [PR]

バーコード
ブログ内検索
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
樟このみ
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
ファンタジーでメルヘンで
ほんわかで幸せで
たまにダークを摘んだり
生きるって素晴らしい

かわらないことは創作愛ってこと

管理人に何か言いたいことなどあれば
メールフォームをご利用下さい。
最新CM
[08/08 いつか]
[06/29 いつか]
最新TB
カウンター